斎藤一京都夢物語 妾奉公

□93.ひとときの さようなら
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御陵衛士について説明があると、伊東を取り巻く男に呼び出されて、斎藤は部屋を出た。
一方で沖田も土方が幹部を招集したと聞き、部屋を出るところだった。

「夢主ちゃん、いきなり外に飛び出されても困るから、ちょっといいかな」

「はい、沖田さん」

土方の部屋に向かう前、沖田は最後の確認を試みた。

斎藤が夢主を断ち切って御陵衛士として屯所を出て行く。
それを今日、皆の前で知らしめると宣言していた。
その時に思い余って飛び出して行かないよう、段取りを決めると言うのだ。

「一度部屋に戻って時間を置いて出るのも不自然じゃないでしょう、ですから一旦部屋に戻ってください。僕が皆に部屋で落ち着いているから大丈夫と伝えます。飛び出したとなれば心配して皆が捜しに出て、新津さんのもとへ行く前に見付かってしまう恐れもあります。周りが落ち着いてからこっそり抜け出しましょう」

夢主がしっかり頷いたのを見て沖田は話を続けた。

「新津さんへの連絡は大丈夫、手紙で日付も伝わっていますし安心してください。一旦休息所で待ちます。そこに新津さんが迎えに来てくれます。新津さんが来るまで山崎さんに辺りを見張るよう伝えありますし、可能な限り僕も傍にいます。・・・夢主ちゃん?」

「はっ、はい!大丈夫です・・・いよいよなんだと思ったら少し不安が・・・」

うわの空で畳を見つめている夢主を沖田が覗き込むと、目が合って正気に返った。

「大丈夫ですよ、新津さんの所が気に入らなければ帰ってきて下さい」

あははっと明るく笑う沖田に夢主もつられ笑っていた。
緊張を解してくれる柔らかい気で包んでくれる。

「正直、斎藤さんの方がやきもきしていると思いますよ。こんなこと言うのは癪ですけどね、斎藤さんは夢主ちゃんを案じていますよ」

「斎藤さんが私を・・・」

「えぇ。分かるでしょう」

「・・・そうですね、ふふっ」

夕べの"らしからぬ"斎藤の態度を思い出し、優しい言葉を掛けてくれる沖田に笑い返していると、部屋に乱れた足音が近付いてきた。

「おっ、沖田先生、早くお越しを・・・」

「どうしました」

急ぐあまり言葉が途切れ途切れになる隊士。
訊ねながら障子を開くと、困り顔の隊士が片膝をついていた。

「先生方がお集まりなのですが、なっ、何と言いますか、一触即発の空気で斎藤先生と他の先生方が睨み合いに・・・」

「それは困りましたね。仕方ありません、行きましょう」

先導しますと隊士が立ち上がり、沖田が夢主を手招いて連れ出した。
その時が来たと気を引き締めて、二人は斎藤のもとへ向かった。

伊東の部屋へ集まるべく斎藤が他の者と合流して歩いている所へ、顔を見た原田や他の残る者達が寄って来たのだ。
何の話も伝わってこない。夢主の身の振りを気に掛ける原田が堪らず話を切り出した。

「おい斎藤、お前どうするつもりなんだ。何を考えている」

「どう、とは」

白々しい・・・
原田はぐっと拳を握り、もう一度問いただした。

「夢主のことに決まってるだろう、どうすんだ。放ってはおけないだろう、連れて行くのか、置いて行くのか、考えはあるんだろうな」

「・・・フゥ」

斎藤はこれ見よがしに大きな溜息を吐いて体を背けた。
原田はその態度に声を荒げ、そのまま伊東の部屋に行く気かと止める。この場を去ろうと一歩踏み出した斎藤の足が止まった。

「どうすんだって聞いてんだ!!」

原田の怒鳴り声が響き、その場に辿り着いたばかりの夢主は思わず体をすくめた。
沖田もその迫力に立ち止まり「やれやれ」と頭を掻く。

「本気だなぁ・・・」

本気で斎藤にくってかかる原田を、沖田はややこしくならなければ良いがと眺め、斎藤にちらりと視線を送った。

・・・いつでもどうぞ・・・

合図のつもりだった。
 
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