斎藤一京都夢物語 妾奉公

□95.弔い
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夢主がいなくなり華の無くなった新選組の屯所だが、男達は日常の生活を取り戻しつつあった。
その中で沖田は独り部屋に籠もりがちになっていた。

「丁度良かったな、土方さんに労咳の話を流してもらって・・・」

夢主も斎藤も出て行ってしまい、沖田はどうしようもない淋しさに襲われていた。

「土方さんだって源さんだっているのに・・・なんでこんなに淋しいんだろう・・・」

皮肉を言っても、どれだけ馬鹿をしても自分を咎める斎藤の声が聞こえない。
喧嘩する相手がいないのがこれほど淋しいとは思わなかった。

「夢主ちゃんは頑張っているかな・・・」

ふと夢主から預かった小さな鏡台に目をやった。
中にあった紅も櫛も今は無い。鏡を覗いていると、部屋の前に誰かがやって来た。
気落ちした静かな足音は誰のものか分からない。

「大丈夫か、総司・・・開けていいか」

「原田さん・・・はいっ」

慌てて布団に戻ると、沖田と同じ淋しさを抱えた原田が部屋に入ってきた。

「お前も随分と塞いじまってるな」

「そんなことはありませんよ、おほっごほっ」

「っくくっ、無理すんなよ、労咳なんて嘘だろう、お前下手すぎるんだよ」

「えっ、何がでしょうか」

布団のそばに胡坐を掻いて笑う原田に、沖田はとぼけて見せた。

「はははっ、どうせ土方さんが広げた話だろ、そうとくれば夢主絡みのこれから起きる出来事に関わる話だ。俺だって馬鹿じゃねぇぞ、だいたいの察しは付くさ」

「いやぁ・・・参りましたね、僕からは何も言えませんよ」

あははっと血色の良い顔で見せる苦笑いは、原田の話がその通りだと答えているようなものだった。

「だか丁度良かったな。こうやって部屋でゆっくり考えられる、そうだろう」

「まぁ・・・そうですね。正直こんなに淋しくて苦しいとは思いませんでした。・・・平気だと思ったんですけどね」

薄っすらと元気なく笑う沖田の前で原田も同じ顔付きでいる。

「動けるんだったらよ、巡察に出てみたらどうだ。体を動かしたほうがきっと吹っ切れるぜ」

「そうですね・・・あぁ、そうだったなぁ・・・そんなことも忘れちゃうなんて」

体を動かせば良いと、夢主が落ち込んでいた時に声を掛けたのは自分ではないか。
沖田は全く情けないと笑って立ち上がった。

「道場、行ってみようかな。巡察は夜・・・行きますよ。慣れていますしね」

「あぁ、そいつがいい」

沖田は気持ちを入れ替えて稽古着を手にした。
この夜、巡察は永倉の二番隊と沖田の一番隊が共に市中を廻ることになった。
 
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