斎藤一京都夢物語 妾奉公

□95.弔い
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夢主が比古の山小屋にやって来て数週間が経った頃、陶芸の工程でこねた粘土から形を作る作業が行われていた。

作業を見せてやると言われ、夢主は比古が壺や皿を造形していくさまを静かに眺めていた。
実に慣れた手付きだ。既に物にしてしまっているのだろう。
比古が天才と自称してしまうのも当たり前かもしれない。

「よぉし、これだけ作れば良いだろう。おい」

「はいっ」

黙って見ていた夢主は慌てて姿勢を正した。

「やりたいと言っていたな、試してみるか」

「はい!是非」

程よい量の粘土を置いてもらい、簡単に手ほどきを受け、比古が回すろくろの上で造形を試みるがどうも上手くいかない。
よれてしまったり歪んでしまったり、終いには夢主の手元から崩れて千切れてしまった。

「まぁ、仕方あるまい。最初から出来るのは俺くらいなもんだ」

「はぃ・・・残念です・・・」

夢主は千切れた粘土を手に、あることを思いついた。

「あの、器じゃなくても一緒に焼いていただけますか」

「あぁっ?構わんが」

一体何を作る気だ、比古は興味を持って小さな粘土のかけらを細工する夢主を見守った。

「これは」

「桜です。厳密に言えば桜の花びらですが・・・」

比古に説明した夢主は、花びらの端に小さな穴を開けた。

「これで紐が通せます。ちゃんと焼けるかな・・・根付にも・・・首飾りや簪、あっ!穴は開いていますが箸置きにもっ」

「はははっ!成る程な!巧いことを考えたな、皿や壺が駄目なら平らで作りやすい物に変えるとは。いいだろう、一緒に焼いてやる」

夢主は素焼きでの失敗を前提に、桜の花びらを多めに拵えた。

「お願いします」

「あぁいいだろう。火に入れる前に一、二週間乾燥させるからな。時折乾燥具合を確認して向きや場所を変えたり、時には濡れた布を被せたり・・・とは言え、また暫く手持ち無沙汰な日が続くぞ」

「ふふっ、そうなんですね」

「どうやって過ごすか迷うところだ」

比古は爽やかに言いながら成形した品々を乾燥させる準備を進めた。

「時間が出来て丁度良い、町に下りてみるか」

作品を乾燥させる為の全ての仕度を終えた比古は、夢主の前に戻ってくると仁王立ちで伝えた。
全ての所作に置いて自信が満ち溢れている。

「えっ、町に・・・ですか」

「あぁ、そろそろ酒を買いに行く頃なんだがどうする。残っても良いが不安なら一緒について来るか」

比古のいない山小屋に残る・・・来ないと言われても獣が怖い。
普段感じる恐ろしい気配が無いと察し、代わりに感じる弱そうな気配に獣が近付いてくるのでは。

「分かった。そんな心配するな、ちゃんと連れて行ってやるよ」

置いて行く選択肢はないようだな、そんな比古の顔に夢主の顔から不安の色が消えた。
 
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