はじまりのロク
□はじめまして
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(相澤side)
「迎えにいかなくていいのか?イレイザー」
椅子をひいて顔をあげれば、気持ち悪い顔のマイクと目が合った。
こいういう顔をしている時のマイクはいつも以上にめんどくさいから構わぬが吉だ。
「オイオイ無視かよシヴィーなオイ!」
キモい声をあげながら肘でつついてくるのが心底うざい。
「先輩、壽さんから今日のことについて連絡はあったんですか?」
「時間通りには来るそうだ。何事もなければな」
「オォーイ!そうやって13号の質問には答えてやんのにオレは!無視かァ?ヘイヘイヘイヘ〜〜〜〜イ!」
「壽さん、事件に巻き込まれやすいですもんね……こればっかりは個性のせいもあるので何とも言えないのが歯痒いですが」
「お前もオレのこと無視すんの?」
マイクのテンションがいつにも増してウザいのを蹴って黙らせるのは簡単だが、今日はそんなことをする気は起きない。
誰かを蹴ろうものなら、あと10分ほどで職員室に到着するであろう壽が文句を言うに違いないからだ。
何事もなく到着すれば、の話だが。
「……ちょっと見てくる」
「お、やっぱ気になってんのね?」
「マジでウザい」
「割と傷ついた」
壽を不幸体質という人間もいるようだが、本人はそんなことはいざ知らず、あっけらかんとしている。むしろ、個性が公表されてからというもの、多くの人の手助けになれることを喜んでいた。
明日に入学式を控えた雄英は静かなものだった。桜の花びらが風に吹かれて舞っている。
校舎を出て校門に続く道を真っ直ぐ歩いていると、壽との記憶が思い起こされた。
もう6年になるのか。
壽と出会ってからそれだけの年月が経っていた。
この6年という歳月を6度繰り返してきたが、今思えばそのどれもが一瞬だったように思う。一日の変わり目を気にせず、ずっと走っていた。"あの日"に向けて全てを賭けてきた。
その未来の一日を意識しすぎたあまり、日常が見えなくなることもあった。想定外の事態が起きたことも数知れず。
なんとかここまでやってきた。
正直、あまり焦ってはいない。俺たちはできることを全てやってきて今を迎えている。むしろ安心感さえある。
しかし、それが慢心であることも分かっている。
「……遅ぇな」
定刻になっても壽が現れることはなかった。
5分前行動が得意な奴ではなかったが、それでも理由なく遅刻をした試しはない。
電話をかけてみるが、ワンコールも鳴らないうちに鼻につく女性の声のアナウンスが流れた。すぐに通話を切り、13号に暫く外出する旨を伝える。
壽が通るであろう道を主に上から探すことにした。