はじまりのロク
□はじめまして
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『よくわからなくなって。自分がどうしたらいいのか。緑谷くんは腕を骨折していたし、それ以前に敵の攻撃を受けてろくに立てない状態でした。
その場にいる大人は私だけで、私はヒーローで。彼を救えるのは私しかいなくて。でも、エネルギーはもう残っていませんでした。
向かってくる敵を見た時、ふと思ったんです。もし、この地面の下がマグマだったらって。そのマグマに脳無が飲み込まれていくのを想像しました。そうすると次の瞬間、地面が割れて、真っ赤な地層が現れたかと思うとそれはマグマで、脳無は吸い込まれるように落ちていきました。
私は、その時まるで映画を見ている気分でした。座席に座って、「よくできた映像だ」なんて思いながら。
無意識に個性を使うことはありました。でもそれは訓練をする前の話で。今では確実にコントロールできているはずでした。
ですが、今回の件を受けて、私は』
「…………」
恐ろしいほどに真っ白な天井だった。
今しがた見た夢と似た恐怖を感じた。
「起きたか」
「……相澤先生…」
そこに相澤先生が座っていることに、夢が夢でなかったと気づかされる。
「………」
起き上がると、この部屋にいるのは私と相澤先生だけであることがわかった。他には誰もいない。相部屋の広さなのに、他の患者のベッドさえ置いていない。
布団も、枕も、机も椅子も棚もカーテンも、全てが真っ白の病室。
「丸一日寝てたわけだが…、何か食べるか?」
「……見ないでください」
ぼたぼたと涙を流すだけの壊れたロボットみたいになってしまった私を見ないでほしい。
「……」
「見ないで」
「……わかったよ」
先生はベッドの隅に座って私を抱きしめた。
この人は私が望んでいることを簡単に叶えてくれる。
誰も見ていないから、勝手に出てくる涙に加えて、私の感情を乗せた涙も流した。