コ/ナ/ン

□2章 DC
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そして、先生がいつのまにか会計を終わらせて帰ってくる
するとここにいる名字を見て驚いていた


「名字、なんでおまえがこんなところに?
それにずぶ濡れじゃないか」

「す、すみません、母に呼ばれまして
でも、用事は済んだのでもう帰ります」

そう言って踵をかえす名字の手を強く握った

「どうしたの?黒君」

本当に無意識だったこの行動に、自分でも驚いてしまう
まだこの親友にはいてもらいたい
そう思っている我が儘な自分がいる

「名字、ついでだから先生の車で降谷と一緒に家まで送ってくよ」

「え?あ、はい
でも少し待ってて貰えますか?
流石にこんなずぶ濡れの状態で車には乗れないので、お母さんに聞いて何か着る服がないか聞いてきます」


「あーそうか、ならここで待ってるから」

そう言うと名字は俺の手をやんわりと離して、それから頭を優しく撫でて行ってしまった
思わずついていってしまいそうになりながら、その場で待つ

「降谷と名字がこんなに仲がいいなんて意外だな」

そういえば部活仲間にも言われたなと思いながら俺は曖昧に頷く

「…………小学校の時からの友人、いや親友なんです」

俺は無意識ににやける顔を手で隠す
親友という言葉は存外嬉しいものだ

まるで特別な言葉を口に出している感覚になる

「そうか、親友は大切にした方がいい」

先生は優しげに微笑みながら俺の頭をポンポンと叩く

「はい、もちろん」

そのあとは、先生は何処かに電話をしているらしく、俺はボーッと宙を見ていたら名字がやってきた

「おまたせしました」

名字は無地の大きめの黒いTシャツに黒の長ズボンでやってきた

恐らく母親のものを借りたのだろう
上下どちらも大きめだ

「じゃあ、行くか」

俺はまた無意識に名字の腕に手がのびていた
その細い腕を掴むと安心してしまう

「ただいま、黒君」

親友が帰ってきてくれた
それだけで俺は心の拠り所が帰ってきたという安心感が生まれる

「…………おかえり」

いつもはアホな名字なのに、こういう時だけ大人な顔をする
俺はそれにむず痒さを覚える

後部座席に座り、先生が俺たちにどちらの家がここからだと近いか聞いてきた

「俺の家ですけど、でも今日は名字の家に寄ります」

「まーた、黒君は私の予定も聞かずに」

抗議の声を聞き流しながら、俺は先生に名字の住所を伝える

「ハハッ、わかった
それじゃあ、名字の家に行くな」

先生はすんなり頷き車を発進させる
俺はしてやったりと思いながら、雨が降り続ける外を眺める

そしてほどなくしてたどり着いた名字の家に、俺はズカズカとお邪魔する

「今、お風呂沸かすから入ってきなよ」

名字が浴室へと消える
そういえばこんなことが前にもあったななんて考えながら、リビングの椅子に腰かける

「カレー作るから待ってて」

そうだ…………俺が誘拐されそうになったときだ
あのときも俺が泣きじゃくって名字の家に来て泊まった

「今日はおまえが先に入った方がいいだろ?」

ずぶ濡れだったのだから、流石に風邪を引いてしまう
髪だって水を多分に含んでいる

「そう?ならお先に〜」

「じゃがいもとか、下処理だけしておく」

「ありがとー」

昔と変わったこと、それはあの時みたいに小さいわけではないこと

今の俺はジャガイモの皮だってむける
そう考えると名字は、あのときから料理を作っていたなんて凄いなと思いながら包丁を使う





程なくしてジャージ姿でお風呂からあがってきた名字が俺のとなりにやってくる

「皮剥いてくれて、ありがとね
じゃあ、次入ってきな〜」

名字は頭をゴシゴシ豪快に拭きながら台所に立つ
こういうところは昔と変わらないなと思いながら名字からタオルを奪い取り、優しくその髪を拭く

「フフっ、黒君は変わらないね」

名字をリビングの椅子に座らせてドライヤーをかけてやる

「そうか?まぁおまえも大概変わらないけどな」

変わったこともある
でも、それは当たり前のこと
それに一番変わったのは友人から親友に変わったこと

「そういえば、おまえあの時俺のこと名前で呼んでただろ?」

「そうだっけ?ははっ、必死で覚えてないや」

こういう都合のいいところだけ覚えていない所は、本当にいい性格してると思う

でも、名前を呼ばれるのは存外嫌ではなかった
また名前で呼んで欲しいと言ったら呼んでくれるだろうか?

いや、呼び名はこのままでいいか
俺のことを黒君と呼ぶのは親友の特権ということにしておくか
そう思いながらドライヤーをかけてやる
さっきまで冷たかった名字の髪や体は既に暖かい

そして髪も乾き、俺も風呂にはいりカレー作りを頼む

少しいつもより熱めのお湯でシャワーを浴びる
こうすると様々なものが落ちていく感じがする

肩の痛みも、そして頬を伝う涙も…………

結構な時間、風呂場に居てしまったため、慌ててあがり体操着に着替える
一応今日持ってきておいて良かった



「丁度、カレーが出来たよ
食べよ」

カレーのいい匂いが鼻をくすぐる
そしてお腹の虫もぐーぐー鳴っている

「ああ、食べるか」

俺たちはもくもくとカレーを食べる
あの時よりも少し上達したカレーを頬張る

いたって普通のカレーなのに、心に染みる
カレーを食べて安心する日がこようとは思ってもみなかったなと、少し笑ってしまった

そして、カレーを食べおわったあと、外が晴れていたため、バスで自宅へ帰った

歩いてでも帰れる距離だが、今日は肩を痛めたから早めに帰って休みたかった

なら、最初から自分の家に帰ったほうが良かったのではないかとは思うが、それでも少しでもこの親友と供にいたかったのだ

降谷 零side end


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