コ/ナ/ン

□1章 DC
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車を持ち上げた事件から数日が経過して、私は平凡な日々を送っていた
まぁ必ず何かしら壊すのだけれど、まぁそれはご愛敬ということで

そんなこんなで、今日も家に帰ろうと靴をはき、校門の前まで歩いていた時だった

「きみ!やっと会えた」

私の腕を掴む感覚にデジャ・ビュを覚えた
この手、前にも見た覚えがあるけれど
その手の主を見るとやはり黒い顔の男の子がいた

「あ……黒君、また会ったね」

とっさに名前が出てこなくて、見た目の印象をそのまんま口に出してしまった

「く、くろくん?なんだそれ」

目の前の黒い子供は首をかしげている

「黒いから黒君」

「そのまんまじゃないか!まぁいい、こい!」

その子は自転車を片手で引きながら器用に私の腕を引っ張る
どこに連れていくのだろうか
無理にほどいたらこの子が骨折しちゃうし…………

そんなことを考えていると小さな公園にたどり着いた

「一緒に遊びたいの?」

「違う!この前のことについて話したかったんだ」

黒君は自転車をとめて私に詰め寄ってきた
私と身長が同じくらいのため、間近で見るその顔の造形に少しだけ驚いてしまう

本当に顔が整っているとは、この事を指すのだろう
どこかの怪しげな趣味の方々にそれはモテるだろう
いや、怪しくない人にもモテるだろう

「聞いているのか!?」

「え?聞いてなかった、どうしたの?」

「だから、今からでもあの小さな男の子を助けたのは君だと言って欲しいんだ」

黒君はイライラしながら私に頼んでいる
確かにこの間車をとめたのは私だが、でも黒くんも男の子のことを庇っていたよね?

「なんで?」

「あのとき助けたのは俺だってことになってる
この間なんて、表彰状なんてものまでもらった」

「おめでとー!よかったじゃない」

私は、ぱちぱちと黒くんを祝福する
表彰状なんて滅多に貰えるものではない
ありがたく受け取ったほうがいい

「よくない!本当にもらうべき人はおまえだろ
俺はなにもしてない」

「そんなことはないと思うけど…………だって、黒君だってあの男の子を庇ったわけだし」

「でも、車をとめたのはおまえだろ
俺は男の子を抱えていただけだ」

かたくなにそう主張する黒君に、私はどうしようかと悩む
私はあまり口が達者ではない

だからこそ、この子をうまい具合に説得できる自信がない

「だから、今からでもあの男の子の両親に言いに行くぞ」

今にも私の手を引いて、その男の子のところに行こうとする黒君に、私は待ってと制止をかける

「あの、あのね、本当に私はいいの」

「なんで、現に体を張ってたすけたのはおまえだろ」

「助けたのは、助けたけど、私の場合必ず車を止められる自信があった
でも、黒君は身を挺してでもあの男の子を助けようとした

自分の体はどうなってもいいから助けようとしたあの勇気には本当に尊敬する」

私は途中から何を言っているのか分からなくなってきたが、でも本心を言うことができた

「だから、私は何もお礼とかいらないの」

私は黒君から逃げるように背を向けると、またもや腕を掴む黒い手

「…………じゃあ、俺がお礼を言う
助けてくれてありがと」

私は後ろを向いて黒君の顔を真っ正面から見てニッコリと笑う

「どういたしまして」

私はその言葉だけで心が満たされた
それでは、私はお役ごめんと言わんばかりにその場から退散しようとする

「ちょっと待って
お礼したいから、何かしてほしいこととかある?」

「ん?ないよー?黒君からありがとうという言葉だけで十分だよ」

「それじゃ俺の気が収まらない」

この子は案外頑固だなと思いつつ私は考え込む

「あ、じゃあこの間助けたことは誰にも言わないってことでいいよ」

「そんなのお礼にならない!
なにかないのか?欲しいものでも大丈夫だ」

欲しいもの?私は改めて欲しいものを頭に思い浮かべてみる

「ドアノブ…………」

「どあのぶ?」

「あ、ちがうちがう!間違えた
本当にいらないよ
黒君のその気持ちだけでおなかいっぱい」

危ない危ない、よく壊すドアノブと無意識のうちに呟いてしまった
そんなものを欲しがる小学生なんていないだろう

「それじゃあダメなんだ
なにかないのか?」

必死に私のほしいものを聞いてくる黒君に私は悩んでしまう

そんな急に言われてもな

「あ!じゃあ、欲しいものとかやってほしいことがあったら、その時になったら言うよ
だから今は保留ってことで」

「…………わかった」

渋々といった感じに引き下がってくれた

良かった…………このまま押し問答を繰り広げていたら日が暮れてしまう



そのあとは黒君は自転車で、私は徒歩で家に帰ったのだった
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