コ/ナ/ン

□1章 DC
3ページ/13ページ

「いってきまーす」

返事は帰ってこないが私は当たり前のように言ってしまう


今日は母はまだ病院だ
入院とかでなく医者の立場で病院にいる
毎日忙しそうで昨日の朝、家にいたのが奇跡に近いほどだったりする
父親は海外出張のため、帰ってこない

まぁ家族の紹介はさておき、ここ最近の私の悩みを打ち明けよう

それは、放課後週に一度のペースで校門の前にいる男の子についてだ




今日も学校が終わり、帰るだけとなったのだが校門の前には黒君がいる
そして必ずといっていいほど、私に欲しいものとか見つかったか聞いてくる

「今日も特にないよ〜ほら、暗くなる前に帰ったほうがいいよ
黒君の家、ここから少し遠いんでしょ?」

違う地区の小学校に通っているわけだし
遠くないはずがない

「大丈夫だ
自転車で来てるから」

確かに自転車ならはやいだろうけど、こう頻繁にこられてもな

いっそのこと記憶を抹消しておけば良かったななどと思ってしまう
これは冗談ではなく本気だ

何故か私の拳で頭を殴ると、その人の記憶が消えるのだ
でも、これはつい最近の出来事か、全てを消すか、どちらかしかできなかったりする

私は微妙なさじ加減が苦手なのだ
だから、もし仮に今黒君の記憶を消したら、今この瞬間からこの前までの記憶が消えることとなる

そうなるとこの数日間のことを思い出せなくなる
それだと周りにも不振がられるだろうし

「大丈夫か?」

私がだまってしまった為、心配になったのか私の顔を覗きこんでいる

それに私は大丈夫だよと安心させるように微笑んで見せる

「じゃあね、黒君」

「あ、うん、…………またな」

私は黒君に背を向けて走り出す
黒君は私がさよならと告げると、いつもこのようにすんなり引き下がってくれる

もうこうなったら、欲しいものはないが適当に言ってみるかと思いつつ家路に着いた




そんなこんなで二ヶ月が経過した

二ヶ月が経過しても黒君は性懲りもなく私の通う小学校に訪れている
それに慣れつつある最近ではあるが…………それが油断でもあったのだ

今日は委員会の仕事などで遅くなってしまい、既にあたりは薄暗くなってきてしまっていた
というのも、主に私が壊したものを修理していた為、自業自得だ

私は急いで帰ろうと靴を履いていると、校門の前にワゴン車が停まっていることに気づく
勿論、私の両親が迎えに来てくれたなどというありがたい話はないだろう

なら誰かを待っているのかなー?と思いつつ近づいてみると

「黒君?」

そこには屈強な男達に無理矢理、黒君が車に乗せられている光景が広がっていた
私は急いで車に近づくが、車は既にエンジンを吹かして発車してしまった

「待ってーーー!!」

私は大声でその車を呼び止めるが、停まってくれない
それに私が走ったところで、のろまな私は絶対追いつかない

学校に戻って先生に知らせるか?いやそれだとあの車は何処かに行ってしまう

というか考えているうちに車はかなり遠くまで行ってしまっている

「迷ってる暇はない」

私は手近にあった交通標識である止まれの看板を引っこ抜く
コンクリートが抉れて簡単にそれは私の手のなかに収まる

そして私は狙いを定めて車のほうに標識を投げつけた

「おりゃぁぁーー!」

なんとも情けない掛け声と共に投げたそれは見事車に突き刺さった

「やったぁ!!」

私は喜びながらその車に近づく
車はプスプスと音をたている

「あ!そういえば黒君も乗っているんだった
黒君に当たっていなければいいんだけど」

一気に不安になりながらも私は足を止めずに車のほうに走る

すると屈強な男が二人出てきた
明らかにヤクザっぽいのだけれど…………

「おまえか?こんなん投げたのは」

「だがよ、こんなチビに投げられる筈がねぇよ」

男達は油断している、これならば私でも勝てるかもしれない

「あの、黒君を返してもらえませんか?」

私は震える手をおさえながら男達に聞いてみる
早く逃げ出したい気持ちをおさえる

「あぁ?返すわけねぇだろ?
あいつなら高く売れるだろうしよぉー?」

確かに黒君の見た目ならば高く売れるだろう
おそらくこの男達は前々から黒くんに目をつけていたのだろう


「それに比べてお前は売れそうにねぇな〜
だが、ここで逃がしても後々面倒だしな〜」

「殺しとくか」

物騒なことを話しているが、なにげに私を貶しているよね?


そういえば、なんで小学校の周りに家とかないのだ?
確かに少し田舎だから無いのはわかるけれど、誰か通ってもいいのでは?

「んじゃ、運が悪かったな〜嬢ちゃんさよならだ」

そう言って襲いかかってくる男に、私は拳を握りしめて男の顔面に叩き込む
すると綺麗に弧を描いて飛んでいく男に私はやり過ぎたかもと思い、少しだけ反省する

でも安心するのははやい、まだ一人残ってる
こちらの男は先程の私の怪力を見ているから舐めてかかってきてはくれないだろう

「このガキィ!!」

男はあろうことか刃物を振り回しながら私に突進してきた
私は刃物を左腕で受け止めて、右手で顔面に拳を打ち込む

「ふぅ…………」

左腕を見ると少し刃物が刺さっているだけで深くまでは達していない
本当に頑丈だなと思いながら刃物を抜く

そして、すぐさま飛ばされた男達が生きているか確認する

「よ、良かった……生きてる」

私は安心したのもつかの間、すぐさまワゴン車にはいり、黒君を探す

「黒君、大丈夫だった!?」

黒君はガムテープで口を塞がれて手足は縄できつく縛られていた

まずゆっくりとテープを剥がしてやる
するとすぐに息を大きく吸って吐く黒君に私は大丈夫?と声をかける

そして縄もほどこうとするが、あまりにもきつく縛ってあったためほどけなかった
そもそも私は器用ではないからチマチマとほどけない

「ごめんね、ちょっと縄ちぎっちゃうね」

思いっきり縄を引っ張りちぎる
すると案外簡単にちぎれた縄をポイッと捨てて、黒君がどこも怪我をしていないか確認する

「良かった、無事で…………」

私は肩を落としながら無意識のうちに黒君を抱き締めていた

終始無言の黒君に私は不安になり、抱き締める腕を緩めて黒君の顔を見ようとしたら、何故か離れられない
それは黒君が私にしがみついているからだった

「怖かった…………本当に殺されるかと……思った」

私の肩越しに泣く黒君に私は背中をとんとんと叩く
そりゃあそうだよね、流石にあんなことがあったんだもんね
大人っぽいこの子でも怖いよね

「もう、大丈夫だよ」

私は安心させるように優しく抱き締め返す
すると必死に私にすがるように更にきつく私にくっついてくる黒君に、加護欲がわいてくる

よく考えたら前世との年齢をあわせると40歳くらいになるから、そういう母性本能というものが芽生えてもおかしくないか

そして、5分くらい黒君を抱き締め続け、流石にこのままワゴンの中にいたら怪しまれると思い、それを黒君に言うとコクりと頷き私から離れる

その小さな温もりが無くなり少し寂しくなるが、私が次にやるべきことを考える

「この男達の記憶を無くそう」

私はその男たちの頭を結構強めに殴る
これならば殆どのことを忘れるだろう
多分ヤクザになる前、小学生頃の記憶まで消えているだろう

少しはまっとうな人生を歩んでくださいという願いを込めて

「な、なにをしたんだ?」

目を真っ赤にはらした黒君がオズオズ聞いてくる
今日の黒君本当にかわいい

「記憶を消したんだよ」

あっ、変なことを考えていたら本当のことを話してしまっていた
そんなことを信じるはずがないのに

私はすぐさま別の理由を考える

「そうなんだ…………凄いんだな」

信じてしまった…………いや、信じてもらえて嬉しいけれども
普通は信じるかな?

まぁ、でも何はともあれ信じてくれたのならいっか

「あ、あれ、ここはどこだ?」

男たちはムクリと起き出した
黒君は私の後ろに隠れている

「早く家かえんねぇと!」

「俺も!」

二人はそう言って家に帰ってしまった
この様子なら、ちゃんと記憶は無くなったみたいだ

今は自分を小学生だと思い込んでいるが徐々に大人に戻ってくるだろう


「す、すげぇ本当に忘れてる
というか、記憶飛ばしすぎじゃないか?」

「第二の人生はまともにおくれるようにってね
さっ、かえろ〜!」

すっかり暗くなってしまったし、また黒君が誘拐されては困る
私は平気だがこの子は目を引く容姿をしている

「あ、う、うん」

私が歩きだそうとしても、黒君は何故か動こうとしない
疑問に思いながら黒君に近づいてみると

「何処か痛い?」

やはり男たちに何かされてしまったのか?

「いや痛くはないんだけど…………」

そう言って手首のあたりをを擦っている
そこには縄で縛られてあった跡が痛々しく残っていた

褐色肌だがその赤は目立つ

「早くそれを治療したほうがいいよ、早くかえろ
私が途中まで送っていくから」

私は子供に言うように優しく促すがそれでも黒君は動こうとしない
本当にどうしたのだろうか?

ふとその擦っている手首を見ると微かに震えているのが見える
まだ恐怖で足がすくんでいるのだろう

「動こうとしないんじゃなくて、動けないのか…………」

それだと立っているのも辛いはずだ

「ご、ごめん」

シュンとしてしまう黒君に私はその頭に手をおき撫でる
本当にこの子は私の母性本能をくすぐるのがうまい

「おんぶしてあげるから背中にのって」

「え?でも…………」

戸惑いがちに拒否する黒君に私は平気だからと言って少し無理矢理にでもおんぶした

「家案内してくれたら連れて行くから」

「あ、でも遠いからいいよ」

「でも、このままだと帰れないよ?」

「でも、本当に遠いし…………」

どうしよう、このまま押し問答をしていても仕方がないし

「じゃあ、ひとまず私の家に来る?
そうすれば、黒君の家に電話して迎えに来てもらえばいいし」

私の家なら歩いて5分位だからさほどかからないし
うん、私ってば珍しく頭が冴えていると自画自賛しながら自宅の方向に足を向けたのだった
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ