コ/ナ/ン

□1章 DC
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自宅に着くと早速電話しようとしたら、黒君にすぐさま止められてしまった

「親、今日はいないから…………」

まだ目や手首が赤い
早々に冷やしたりしたほうがいいなと考えつつ受話器を置く

「そっか、なら明日は丁度お休みだから私の家に泊まる?」

「え?いいの?」

別段私としても黒君が泊まっても支障はないし
それに、このまま一人で家に帰らせるのも気が引ける

また変な大人達に誘拐されてしまうかもしれない
それほど今の黒くんは儚げな印象だ

「じゃあ、まずはお風呂沸かしてくるからリビングの椅子に座ってて〜
あっ、あとこれ保冷剤当てときな」

私は冷凍庫をあけて、保冷剤をとりだしハンカチにくるむ
それを差し出すと素直に受け取ってくれた

黒君は無言でオズオズとリビングに行き、椅子に腰かけるのを見届けたあとに、私はお風呂を沸かしに行く

そういえば、今日は昨日の残りのカレーがあったなと考えつつ湯はりのボタンを押す


リビングに戻ると黒君はキョロキョロと辺りを見渡している
私の家のリビングはつまらない程に物が少ないから、見るものもないと思うけれど

「黒君、カレー好き?」

「あ、うん…………好きだけど」

借りてきた猫のように緊張している黒くんに不謹慎にも笑ってしまう

「良かった、今日は丁度じっくり熟成されたカレーがあるからそれを食べよう」

熟成され過ぎて鍋にカレーがこびりついている
水を足しながら丁度良いカレーの形に仕上げる

ご飯は冷蔵庫に入っていたものを電子レンジにかける

カレーを盛りつけ、それを黒君の前にさしだす

「これ自分で作ったのか?」

目を少し輝かせながら聞いてくる
こういうところは子供っぽくて可愛いな

「う、うんまぁね」

本当はもの凄く料理が苦手だったのだ
でも、前世でも料理を作っていたし、今現在もちょくちょく作るので嫌でもまともな料理が作れるようになった

初期の頃は力加減がうまくいかず、いくつもまな板を壊してしまった記憶が懐かしい

「へー、意外だな
調理器具とか壊しまくるのかと思ってた」

図星をつかれて思わず苦笑いになる

「最初の頃はそうだったけれど、最近は慣れてきたんだ〜…………じゃ、食べちゃお」

何はともあれ私はお腹が空いてしまったのだ
私はスプーンを握り、いただきますという掛け声と共にカレーを食べ始める
黒君も少し戸惑いがちにカレーを口に運ぶ

カレーを食べつつ黒君の表情を盗み見る

「…………ど、どうかな?美味しい?」

私の料理は自分で言うのもなんだが、普通だ
不味いわけではないが、格別美味しいわけではない


「うまい…………」

一言…………そう言ってくれた黒君に私はほっと胸を撫で下ろす

不味いと言われなくて良かった

「そっか…………良かった」

私は少し恥ずかしくなり、カレーをモグモグと口に頬張る
確かに今日のカレーはいつもとは違う気がした

やっぱり熟成させたのがよかったのかな?




そして、お風呂が沸いたのと同時に黒君をお風呂に案内する
最初こそ一番風呂は私が入るべきと言われたが、それでも何とか無理矢理お風呂に入らせた

その間に黒君が着られるようなTシャツと半ズボンを洗面台におく
丁度身長も同じだから良かった

洗面台からでて台所に向い、食器を洗っていると黒君が肩にタオルをかけながらやって来た

やっぱりTシャツも半ズボンもピッタリだ
私は安心しながら黒君に近づき、そのタオルを黒君の頭の上に置き、優しく拭く

「よく拭かないと風邪引いちゃうよ?」

「べ、別に大丈夫だ」

「だめだよ、ほらここに座ってドライヤー持ってくるから」

リビングの椅子に座らせて洗面所からドライヤーを持ってくる
そして、ドライヤーを当てながら黒君の髪をそっと鋤く

「自分でやるから」

「これくらいやらせてよ〜
あっ、これがこの前助けたお礼ってことでいいから」

黒君は後ろに立つ私を少し睨み付けながら、分かったと頷き前を向いてくれる

「でも、これがお礼ってなんかいやだ
だから他に考えといて」

「りょ、りょーかい」

お礼か…………本当にそんなのはいいのに
私はこうやって黒君の髪を乾かしているだけで心がこんなに満たされる

私に弟がいたら…………いや子供がいたらこんな風に甲斐甲斐しく世話とかしていたのかな

髪があらかた乾かし終わり、黒君の肩に手を置いて終わったよと告げる

すると黒君がくるっと顔だけを後ろに向く

「あ、ありがと…………名字」

その頬を少し赤らめてお礼を言う黒君に、私は思わず顔がにやけてしまう
しかも初めて名前を呼んでくれた
いや、名前ではなく名字だけどそれでも嬉しかった

「…………あれ?そういえば私は黒君の名前知らなかったかも
黒くんの名前は何て言うの?」

「今ごろかよ…………」

肩を大きく落とす黒君に、少し申し訳なく思いながら私は一応ごめんと謝る

黒君は椅子から立ちあがり、私の目の前に立ちまっすぐ見つめてくる

「降谷 零、小学4年生の10歳
まぁ、今さらだけど宜しく」

「宜しくね、黒君」

「せっかく自己紹介したのに名字はそうやって呼ぶのか…………まぁいいけど」




私たちの出会いはこのようにして生まれたのだった
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