コ/ナ/ン

□1章 DC
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降谷 零side

俺の髪を乾かしおり、お互いの自己紹介もすんだところで、名字もお風呂にはいるようだ
俺は先に名字の部屋で待っているように言われたため、部屋に案内される

「お客さん用の布団出すからちょっと待っててね」

名字の部屋はいたってシンプルだった
ピンクのカーペットが部屋に敷かれて、窓際には勉強机があり、部屋のすみに敷布団が畳まれていた

「名字も敷布団なのか?」

「私、寝ているうちにベット壊しちゃうかもしれないからね〜
まぁ言うなれば寝相が悪いんだよ」

ニヘラと笑う名字を見て、確かに寝相が悪そうだと納得してしまう

「じゃあ、お風呂に入ってきまーす」

「いってらっしゃい」

俺は名字が風呂場に向かった瞬間、敷布団に大の字にねっころがった

見慣れない天井を見上げると、ここが他人の家なのだと再認識させられる

そして、目を閉じると二ヶ月前のことがフラッシュバックする

俺と名字が初めて出会ったときのことを…………

あのとき、俺は小さい子供を守ろうと道路に出た
本当に無意識だった

自分がどうなろうが構わなかった
たぶん、ここで俺は死ぬのだろうと車が迫ってきた時確信した
でも死は訪れなかった
変わりに正義のヒーローが登場した

俺はそのとき、本当に名字のことを正義のヒーローなんだと思い込んでいた

お礼を言おうと口を開こうとしたとき、その人は逃げるように去ってしまった
まるで三分間しか変身できない特撮ヒーローみたいだなと思いながら、その後ろ姿を見送った

そのあとは、俺の腕の中にいた小さい子供の親が駆け寄ってきた
そして先程の出来事を話しても、信じては貰えなかった

するとあれよあれよと、俺が男の子を助けたみたいになり、大々的に表彰状まで貰ってしまった

俺は終始胸が痛かった
これを受けとるべき人は他にいるんだ
俺は なにもしていない
そう叫びたかった…………でも誰も聞いてはくれないだろう

胸が張り裂けそうな思いをしながら、俺は助けてくれた人物のことを調べ続けた

そして、やっと見つけたが隣の地区の小学校だった
丁度俺と同じ学年の名字 名前という人らしい

でも、あんなに凄い力を持っているのにそこまで噂にはなっていないのが、疑問に思いながらその小学校に自転車で向かった

20分ほどかけて、その小学校にたどり着き、校門の前で待機する
目を皿のようにして目当ての人物を探す

「きみ!やっと会えた」

ようやく見つけたその人物は正義のヒーローとはかけ離れた存在だった

見た目は本当に普通の少女でぼーっとしている印象しかなかった

「あ……黒君、また会ったね」

「く、くろくん?なんだそれ」

しかも変なあだ名までつけていた

「黒いから黒君」

俺は思わずずっこけそうになるのをおさえつつ苦笑いをする

「そのまんまじゃないか!まぁいい、こい!」

目の前にいる名字の細い手首を掴み公園に連れていく
こんなに細いのに、あんな力が出せるなんて本当に凄いな



「一緒に遊びたいの?」

公園にたどり着き、自転車をとめて向き合うといきなりそんなことをいってきた
本当にこの少女に助けられたのかと、疑ってしまうほどにこの子は少しボケていた

「違う!この前のことについて話したかったんだ
それで今からあの小さな男の子を助けたのは君だと言ってほしい」

顔を近づけてつめよるが、名字はボーっとしながらその真ん丸の目で俺を見つめてきた

「聞いているのか!?」

「え?聞いてなかった、どうしたの?」

あっさり素直にそう言ってくる名字に俺は少し肩を落とす

「だから、今からでもあの小さな男の子を助けたのは君だと言って欲しいんだ」

「なんで?」

「あのとき助けたのは俺だってことになってる
この間なんて、表彰状なんてものまでもらった」

「おめでとー!よかったじゃない」

パチパチと心のそこから喜んでいる名字に俺はため息をついてしまう

「よくない!本当にもらうべき人はおまえだろ
俺はなにもしてない」

「そんなことはないと思うけど…………だって、黒君だってあの男の子を庇ったわけだし」

「でも、車をとめたのはおまえだろ
俺は男の子を抱えていただけだ」

そうだ、俺は本当になにもしていない
自分で言って情けなくなるし、悔しくなる
俺にはまだ誰かを守ることができる力がない


「だから、今からでもあの男の子の両親に言いに行くぞ」

俺は黙っている名字の腕を掴みあの男の子の家に向かおうとしたときだった
オズオズと名字が話始めた

「あの、あのね、本当に私はいいの」

「なんで、現に体を張って助けたのはおまえだろ」

どうしてそこまで遠慮するのかが分からなかった
普通は憤慨するところだろうに

「助けたのは、助けたけど、私の場合必ず車を止められる自信があった
でも、黒君は身を挺してでもあの男の子を助けようとした
自分の体はどうなってもいいから助けようとしたあの勇気には本当に尊敬する」

その純粋な眼差しに俺は目をそらしてしまう
あまりにもそのまっすぐな感情に俺は胸が熱くなった

「だから、私は何もお礼とかいらないの」

そうか…………やっとわかった
こいつは本当に見返りなどは求めないお人好しなのだ

本当に正義のヒーローのような信念に俺は純粋に憧れの念を抱く


「…………じゃあ、俺が御礼を言う
助けてくれてありがと」


「どういたしまして」

その満足そうに笑う名字に少しだけ目が奪われる
こんな風に笑うんだ…………
すると俺のなかに小さな欲が出てきてしまった
もっとこの笑顔が見たい
何をしたらもっと笑ってくれるかな?

「ちょっと待って
お礼したいから、何かしてほしいこととかある?」

「ん?ないよー?黒君からありがとうという言葉だけで十分だよ」

「それじゃ俺の気が収まらない」

俺は理由をつけてこの目の前の少女と関わろうとした


「あ、じゃあこの間助けたことは誰にも言わないってことでいいよ」

「そんなのお礼にならない!
なにかないのか?欲しいものでも大丈夫だけど」

本当に無欲なのか何も欲しいものは無いと主張する名字に何かないのか問いかける

「ドアノブ…………」

「どあのぶ?」

そういう玩具などがあるのだろうか?

「あ、ちがうちがう!間違えた
本当にいらないよ
黒君のその気持ちだけでおなかいっぱい」

ここで引き下がっては名字とはもう二度と会うことはないだろう
いや、なぜ俺はここまで名字に関わろうとするのだろうか

笑顔が見たいから?いや、それもあるけど俺は正義のヒーローと友人になりたかったんだ
ただそれだけだった
でも、俺の口からは友達になろうなどということは言えない性格なのだ

「それじゃあダメなんだ
なにかないのか?」

名字は考え込むように頭を抱えている

「あ!じゃあ、欲しいものとかやってほしいことがあったら、その時になったら言うよ
だから今は保留ってことで」

「…………わかった」

保留か…………それならば見つかるまでは関わることができる
それがこの上なく嬉しかった
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