コ/ナ/ン

□3章 DC
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バイト探しはやめて、今はジョギングなど地道に体力をつけることにした

因みに今は暑さが厳しい夏休みだ

そういえば、黒君は何の部活に入ったのかなど聞いてないなと思いだす

そもそも高校入学してから黒君と話したりしてないかも

たまにはこちらから電話をかけてみようかと思い、受話器を手に取る

それに丁度今は19時頃だから、黒君も家にいるだろう
何回か呼び出し音が鳴った後に、久しぶりに聞く黒君の声が耳元から発せられる

「…………降谷です」

「もしもし、私です」

いつもの仕返しとばかりに私は自分の名前を名乗らないでみる

「名字か?」

「そうだよ〜よく気づいたね」

もし気づかなかったらどうしようかと、内心ひやひやしたのだが、それは杞憂におわった

「わかるさ、なんせ俺たちは親友だろ?」

「フフっ、そうだった」

その親友の声を久しぶりに聞くことができて、私は少しだけ気持ちが高揚する

「で、どうしたんだ?」

「いや、元気かなって思ってさ」

そういえば用件と言えるものもなく、ただ電話したくて電話してしまった
流石に迷惑だったかと少しばかり反省する

「ああ、お陰さまでな
そっちはどうなんだ?」

「元気だよ〜でも最近は暑くてぐったりかも」

部活などをしていない私は、もっぱら昼は家でごろごろしている生活をしている
もっと青春とかを満喫した方がいいと思うのだけれど

暑さには負けてしまう

「ハハッ、そうか
じゃあ、そんな暑さも吹っ飛ばす涼しくなるようなところに行くか?」

「え?どこどこ?」

「秘密だ
ということで、明日9時頃迎えに行く」

そう言ってそうそうに切られてしまい、呆然としてしまう

本当に黒君は相変わらず私の予定を聞かないんだから






時間通り私の家のチャイムを鳴らした黒君を出迎える

そこにはグレーのサマーニットにGパンというシンプルな服装なのに、完璧に着こなしている黒君をまじまじと見つめてしまう

本当にこの子はますますイケメンになっていく
小さいときは可愛らしい顔で誘拐されたというのに…………それが嘘のようだ

「どこにいくの?」

「それは行ってからのお楽しみってことで」

隣を歩く黒くんに尋ねてもはぐらかされてしまう

これは本当についてみないと分からないパターンだなと思い、そうそうに諦める

「それにしても、暑いな…………」

「黒君は体が真っ黒だから年中暑そうだけどね」

「なんだと〜そんな悪いことを言う口はこいつかー?」

黒くんが私のほっぺを引っ張りだす
こういうやりとりも久しぶりだなと思いながら、頬を引っ張られながら笑ってしまう

「ひはいほー!」

痛いよーと主張しても引っ張る手をやめる気配がない
この子、握力が強くなってきているのではないか?
いつか私の怪力をも越える日も近いかもと思いながら、なすがままになる

「ハハッ、ほっぺ真っ赤」

自分でやっといて笑うなんて酷いと思いながら黒君を睨み付ける
しかし、いつものごとく黒君には全くきかない

それどころか、更に笑いだす始末

まぁ黒君が楽しそうだからまぁいっかと思いながら私も笑ったのだった







「ここだ」

「ここ?」

少し歩いて着いたところが、ボクシングジムだった
いやいや、暑さが吹っ飛ぶと言っておりませんでしたっけ?
黒君、暑さで頭がパーになったのかな?と心配をよそに黒君はそのジムに入ってしまった

「え?ちょっと待ってよ」

入った瞬間、外の暑さとさほど変わらない室内に私は肩を落とす

「おー!零、来たかー」

「こんにちは、今日もよろしくお願いします」

黒髪短髪の屈強なおじさんがやってきて黒君と仲良さげに話始める

というか今日も、ということはこのジムに通っているということなのかな?

「おっ、そっちが噂の名字さんか?」

「あ、はい、初めまして
名字 名前です」

噂って、何の噂をされているのだろうか
恐らく噂の発信地は黒君しかいないだろうけど

「名前ちゃんか!
よし、さっそくサンドバッグを叩いてみるか?!」

おじさん?何を仰っているのでしょうか?
話についていけない為、助けを求めて隣にいるであろう黒君に目線を運ぶと

「あれ?黒君は?」

「ああ、零は着替えに行ってると思うぞ
ほれ、これがグローブだ」

紅葉を彷彿とさせる真っ赤なグローブを渡されて私はどぎまぎする
そして、グローブとおじさんの顔を交互に見ながら動けないでいた

「ああ、付け方がわかんねぇか」

そう言って丁寧に私の手にグローブをつけてくれる
既に両手はグローブがはめられてしまい、サンドバッグの前に案内される

「あ、あの、おじさん、私」

ここに何故来たのか分からないんですと言おうとしたら

「ああ、彼氏が来ないとやっぱり不安か」

「いえいえ、黒君が彼氏なんてありえませんよ〜」

なんて受け答えをしていたら黒君が背後からやって来ていた

「そうだな、俺もおまえの彼氏になるなんて荷が重い」

「本当に君は憎まれ口しか叩けないのかなー?」

小さい頃はまだ可愛いげがあったような気がするのに
いつからこんなひん曲がってしまったのだろうか
育て方を間違ったかしら?と悩やんでしまう

「まぁまぁ、それより嬢ちゃん、バシーッとサンドバッグ叩いてみなよ」

だから何故私がサンドバッグを叩かなければならないのだと、黒君に抗議の目を向けるが黒君はそ知らぬ顔

「…………わかりました
やってみます」

私はサンドバッグの前に立ち、拳を握りしめる
そして思いっきりそのサンドバッグに拳を叩きつける

ドーーーンッ…………という音を立ててサンドバッグがはね上がる

「うわっ」

思わず自分でもビックリしてしまう
その爽快な感覚に私は心がスカッとする

「す、すげぇな」

「流石は名字だな」

右手はヒリヒリしているが、それをも上回るほどの快感に私は目を輝かす

「ま、待て!嬢ちゃん手を見せてみろ」

いきなりグローブをとられてしまい、手がスースーする

「血が出てないだと?
あんな勢いで打ったってーのに無傷なんてありえねぇ」

おじさんの心配とは裏腹に、私の手は少しだけ赤くなっているだけで、血もましてや骨折もしていなかった

「普通のやつはこんな無傷ではすまねぇってのに
相当丈夫な体してんだなー!」

そういっておじさんは私の背中をバシバシ叩く
よかった不自然に思われなくて

そこからは黒君の練習風景を眺めていた

またサンドバッグを叩きたいとおじさんに言ったら、今度こそサンドバッグが壊れてしまうと言われて渋々引き下がった

「よし、零スパーリングしてみっか」

「はい!」

お!黒君がリングに上がったぞと思いワクワクしながらその光景を見つめる

リングにあがりお互いあいさつをしてゴングの音が鳴り響いた

黒君は華麗に相手のパンチを避けながら足でリズムをとりながら前にでる

接近戦に持ち込み強烈なパンチを繰り出している黒君に、呼吸さえも忘れるほど見いってしまう

凄い、黒君はこんなことをしていたのか

…………あ、なんだか今日ここに私をよんだ理由がわかった気がする

多分、私と会ってない間、自分はこんなことをしていたんだよと教えてくれたのだ

あの子は不器用だから言葉ではなく行動で示してくれたのだろう



ちゃんと、伝わったよ
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