シリーズ 短編

□隠せ恋心
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物心ついた時から芸能界にいて気がつけば私も来年高校を卒業するくらい大きくなった。
一時期はCMで一世を風靡したくらい人気があったが最近では連続ドラマのゲストに少し出るくらいである。
それでも私は満足している。もう、芸能界には満足しているのだ。私は将来先生になりたいと思っている。だから高校卒業と一緒に芸能界も卒業したいという考えをマネージャーに伝えた。
そしたら寂しいけど私の夢を応援すると背中を押してくれていい人をマネージャーにもったなあとちょっと涙が出そうになった。
それから小さい時から一緒に頑張ってきた子役仲間たち何人かに引退すると言うことを伝えた。

それからしばらくしてメディアでも今年いっぱいで引退という報道が出た。

周りは優しい人ばかりで応援してくれる人ばかりだった。皇天馬、ひとりを除いて。

「芸能界引退するってどういうことだ。」

すごく勢いが強く、綺麗な顔がすぐ目の前にある。近いって。

「私、将来は学校の先生になりたいんだ。だからその勉強に専念したくて」

そういうと天馬はなんだか難しい顔をしていた。小さい頃からこの世界にいてドロドロしたところをたくさん見ているはずなのに彼はまっすぐでピュアでつい構ってしまいたくなるそんな存在だ。
テレビの中ではキリッとしていてカッコイイ皇天馬だけど私の知ってる皇天馬はもっと人間らしくて可愛い。
大好きだけど、天馬と私では身分が違う。
片や売れっ子俳優で私はかつて一世を風靡した程度の子役である。今回のことも天馬は忙しいだろうから特に伝えないでいた。でもこうしてきちんと怒ってくれた。

「ありがとうね」
「は?」
「私のこと心配してくれてるんでしょ?優しいなって思って」
「なッ!心配なんてしてねぇし」

そういってそっぽを向く天馬の頬が少し赤くなっているのが見えた。

芸能界を引退したらこうして天馬と会う機会もぐっと減る。そう考えると胸がきゅーっとなる感じがして苦しくて気がついたら

「好き」

そう私の口が発していた。

私はもう少しで終わるがこの世界で生きる人間にとって恋愛は邪魔になることが多い。だからこの思いはずっと秘めていた。はずだったのに。あと少しで終わると思ったら、会えなくなると思ったら堪らなくなって無意識に気持ちを伝えてしまっていた。

「お前、」
「まって、今のナシ」

天馬が何かを言おうとしたが私はそれに被せて言葉を消した。
私は良くても彼にはまだこの世界でのこれからがある。足を引っ張りたくない。

「今の、芝居の練習だから。なんか癖で出ちゃったみたい。やだな〜芝居馬鹿なのかな。」
「・・・・・・」
「これからは出ないように気をつけないとね〜。天馬も芝居馬鹿なんだから気をつけなよ。」
「ヘタクソ」

その四文字を発して綺麗な目が私を捉える。

「芝居じゃねえのくらい分かるんだよ」
「・・・・・・」
「大体いつもはあんなに演技うまいのに言い訳が下手すぎるんだよ」

私は今とても恥ずかしくて顔を挙げられない。

「俺もお前が好きだ」
「え?」
「でも俺は芝居も同じくらい好きだ。」
「うん」
「お前も芝居も大切だからスキャンダルは起こしたくない。」
「・・・・・・」
「だからあと3年待ってくれ。
それまでに絶対納得できるような実力をつけた役者になってやる。だからそれまで待ってくれねえか。」
「う、うん!」
「あと告白は男からさせろ。今日みたいに突然言うのはナシだからな」

そこでずっと下に向けていた顔をようやくあげると真っ赤な顔をした天馬がいた。いつもだったら可愛いとおもうのだけど、それよりも愛おしいが勝っていた。

また好きだと言ってしまいそうになったが、それはストイックな彼が自分に納得出来る日が来るまで心にとどめておこう。

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