読み物
□下心から真心まで数cm
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1.
紳士であるのにこんないけない感情を持つのはどうだろう。それも、実で無いとは言え、弟に。
彼は元々小さくて心も身体もボロボロだったから、最初は恋心よりも母性愛…なんと言うか護ってあげたいの気持ちの方がかなり強かった。
でも彼を見ている内に、甘いチョコを少し嫌そうでもちゃっかり食べる所とか、本を読んでいる時の横顔とか幼いながらに可愛らしいと感じていた。
それでも本人の前でバカ正直に可愛いなど溢すと不機嫌そうに顔を歪められるから言わないように抑えてる…つもり。
今はまだキスをしたいとか抱きたいという性的欲求よりも柔らかい髪を撫でたいとか華奢な身体をこの腕で抱きたいとか、何処か紳士的な欲求が胸を満たすばかり、今のところは。
「ねえディオ」
「何だいジョジョ」
つまらなさそうではあるが、本を読みながらでもきちんと返事を返す所は優しいと思う。
「僕、変なのかなあ」
「そんなの元からじゃあないか」
いやいや、そうじゃなくて。
あ、いや違う。元からっていうのも違うしディオの言葉の解釈の仕方も違う。
「もし…もしだよ?仮に君の事を好きだと言ったら君はどうするの?」
「気味が悪いな。そんな物語染みた話をする奴だったかい、君は」
「いやあ、何となくだよ。思い付いただけで」
「ジョジョ、君は気づいてないかもしれないけど君は嘘をつくとき密かに視線がずれる。人の顔を見なくなってるんだぜ」
「冗談だろう?」
「いや、鏡を見てみるといい」
あながちディオの言うことは間違っていない様な気もする。
だって、今君の事をまっすぐ見れない。
「さて__質問の答えだけど、ジョジョ。好きと言えるのはまだ恋という事だ。」
静かにディオの話に耳を傾けてみる。ディオはたまに小難しい話をするからどうも長く聞くのは少し苦手だ。
「漢字、という異国の文字を習ったね。それには恋は下心という意味合いが含まれている」
「下心?」
「何かを相手に望んでいるという事だ。」
漢字は確かに少しだけ勉強したがどんな文字だったかはいまいち思い出せない。それを見かねたディオが真っ白な紙に達筆な筆記で「恋」と書いてみせた。
「似た意味で愛という漢字がある。これは真心という意味合いだ。」
「恋」の隣に「愛」という文字が追加される。僕たちの使う言葉よりもずごく複雑な形をしていてとても覚えにくい。
「で、この二つを合わせると恋愛、つまりどちらに揺れている状態だな」
下心か真心か、下心だったらそれまで。真心だったらその人に尽くしてあげたいという気持ちの現れ。とディオが力説している。
「なあ、ジョジョ。君はどっちを僕に向けるんだい」
猫の様なつり目が、まっすぐ僕を射抜く。
「君がどちらを向けるかによってそれこそかなり対応が変わるんだぜ」
僕、は………
「ディオ……」
僕のこの心は、紛れもなく真心だ。
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