読み物

□星の子供と泥の神
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『お嬢さん、どうか私に夜の時間を少しばかりくれやしないかい』








そよそよと風に流れるカーテン。半分だけ開けた窓から月明かりが溢れて今日はいい空が広がっている。お星様がきらきらと瞬いてそういえば、こんなに綺麗な夜空なのだからきっと来るわとおめかしするの。この前ママに買って貰ったワンピース。夜の王子様に見せる為に選んだんだから。
髪を整えるとカタカタと窓が開く音が聞こえた。
「いらっしゃい!来ると思ってたの」
「招かれた客だったなこれは。今夜も少しだけ時間を貰うぞ、徐倫」
「うん!」
お星様に負けないくらいきらきらと綺麗な金の髪を揺らして吸血鬼だと名乗る男の人を部屋に入れてあげる。何ヵ月も前からこうやって寂しい夜の時間を貰ってくれる吸血鬼さんは私の姿を見ると綺麗じゃないか、と頭を撫でてくれた。
ママとパパが離婚してこっちに移動してからはパパと入れ替わるみたいに吸血鬼さんが毎晩尋ねてくるようになった。吸血鬼さんは色んな所で旅をしていて、この前もアメリカの何処かにいる友人の神父さんのお話をしてくれたばかり。パパは物心ついた時からあまりお家で見たことがなかったし、唯一覚えているのは微睡んでいる私の頭を辛そうな顔でそっと優しく撫でてくれた事だけ。私は、パパに関する記憶があまりない。
「吸血鬼さんがパパだったら良かったのに」
私がそう言うと吸血鬼さんは驚いた顔で言った。
「どうしてそう思う?」
「だって、吸血鬼さんがパパなら…こうやって毎日会いに来てくれるし色んなお話も聞かせてくれるもの。私のパパは…私はパパの声すら覚えてないのに」
ちょっと悲しくなってうつむくと吸血鬼さんが優しく頭を撫でてくれた。それは、パパにちょっぴりだけ似て重なる。
「私にも息子がいてね、徐倫よりももう少し大きいぐらいの。ハルノという名前だ」
「貴方パパだったの?ならどうしてこんな所に…」
「夜は私の活動時間だからだ。日中はハルノと遊んだりしているよ。」
吸血鬼さんは暇潰しに私の所へ来ているのだ、と話したけど本当にそれだけ?
「父親とは辛いな。不器用なモノだから上手く自分が思っている事は伝わらないし気恥ずかしくて口に出せやしないのだ」
苦笑いしながら吸血鬼さんは言う。
「私も大事にしているつもりなのだが伝わっているかまではい確証がないな。たまに口喧嘩になるし」
「でも、仲直りできてるでしょ…?」
「勿論」
「なら、大丈夫よ。きっと…だって、好きじゃないなら仲直りしたくないって思っちゃうもん」
「そうか…そうだといいな。あの子もお前の様に真っ直ぐな子だからきっとそうかもしれん」
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