読み物

□だーりん、終末はすぐ其処に。
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カチリ


大好きな音楽が終わる前に、ストップ、巻き戻し、最初からスタート。終わりがないなら好きな歌を永遠に私のモノにできる。終わりがこれば、またテープレコーダーのボタンをカチリと押して、ストップ、巻き戻し、スタート。私が承太郎に、奪う事しかできなかった私が誰かのために贈り物をした、初めて承太郎に与える事が出来たもの。
ストップ。これを笑って受け取ってくれた承太郎はもういない。よって、私の元に終末がやってきた。
巻き戻し。ガタガタと揺れる電車で目を瞑って今度こそと下唇を噛む。
スタート。こうやって、振り出しにモドル。
今回は承太郎は海に沈んで消えた。仲間である人物を助ける為に、託す為に深い海底へと溶けていったのだ。この前はスタンド使いに闇打ちされた。その前は私と心中した。それよりも前は____……
承太郎は何回も死んでいる。私が何回と巡る世界で、何千回と何万回と奴は年をとらないまま死んでいるのだ。私の記憶の中で、何回も巡りあった承太郎との運命の中に、承太郎の老いた顔を拝んだのはひとつもない。バカで不器用だから、いつもそうやって無駄死にするのだ。
貴様がそんなヤツだから、自分を犠牲にして誰かに託すなんていう思考に至るのだマヌケめ。阿呆。
畜生、今回は、私は女の身体で転生して貴様の子供を孕んでいたというのに。すっかり元の形に戻ってしまった薄い腹を指先で撫でる。私に何も言わないでぬけぬけと命を落とすとは馬鹿め。
私は、ただ私の視る未来の中で、くしゃくしゃの顔で衰退しきったそのザマを笑ってやりたいだけなのに、一度でいいから空条承太郎の穏やかである筈の最期を共にしてやりたいのに。私の記憶には若い、あの整った顔で微笑む彼しかいないのだ。
耳一杯に流れ込む音楽を遮る様に、また駄目だったね。と気抜けた声が聞こえる。
「可哀想に。」
そんな事を言う貴様の目は、ちっとも哀れんだり慈愛なんていう比喩は込められていないじゃあないか。重い頭を力ずくで上げて声の主を見上げる。
「今回は、この前よりも三日ほど早かったねぇ」
「…あの馬鹿が死に急ぐからだ」
「気づいてるだろ、DIO。その前よりも一週間は早い」
「黙っててくれないか!」
こうして巡って繰り返す間に、承太郎の生きている時間が少しずつ削られて短くなっている。学者になって、論文に追われていて忙しいのだと呟く承太郎はもう記憶に古い。もう、その運命まで辿り着けない。
目の前から聞こえる声が邪魔でカセットテープのボタンを、ストップ、巻き戻し、スタート。
「ねえ、そろそろ諦めたらどうだい」
「そんなのは遇者の結論だ」
「前が見えない道を歩いて泣いているキミの方がよっぽど遇者に見えるだろうね。きっと」
煩い、誰も泣いてなんかいないじゃないか。この節穴め。
ストップ、
「ちょっと待って!」
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