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□特別な誕生日
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ピロリン
騒がしく鳴るLINEの音で目が覚めた。
見てみると、そこにはバースデーメールが何十件も来ていた。
「うわ、」
焦点の合わないかすんだ目で一つ一つ読み、ありがとう、とだけ返した。
正直、誕生日を祝われても特別嬉しいなんて思わない。
小さい頃、僕は家族に誕生日なんて祝って貰えなかった。
そして幼ながらに悟った。
あぁ、僕はいらないんだと。
それからと言うもの、もともとなかった物欲は更になくなり、誕生日プレゼントをねだったり、クリスマスプレゼントをねだったりすることもなくなった。
僕が物欲がない分、お姉ちゃんには甘かった両親。
今となっては僕にも同じように愛を注いでくれるけど、昔は怖いくらいに僕に冷めていた。
だから僕はこんなにもひねくれ者になってしまったのかもしれない。
自分に失笑をした。
大きなため息を一つ付き、ベッドから立ち上がった。
あれ、そういえば。
毎年毎年、零時ぴったりにおめでとうメールをくれる涼介から来てない。
忘れてる?
確かに涼介忙しいし、寝ちゃったのかもしれない。
気にしないようにしても、一回気にしたら気になってしまう。
「毎年祝ってくれるの嬉しかったんだけどなー、」
朝食を食べる気にもならず、ソファーに座る。
そこへ家のインターフォンが鳴った。
「はーい、」
モニターをチェックすると、今考えていた人の姿が見えた。
「え、涼介、なんでいるの、」
そういえばこの前、
「知念の誕生日の日は俺朝から仕事だから祝ってやれない。ごめんな。」
って言ってた。
なのに、なんで?
「お前の誕生日、直接祝いたくて来ちゃった。」
そうやって涼介は優しく、でも少し悪戯っぽく笑った。
それが嬉しくて嬉しくて、涙が出そうになった。
「早くお前の二十三歳になった顔見せて。」
僕は走って玄関へ行き、ドアを開けた。
目の前の人が愛しくて愛しくて。
僕は迷わず抱き着いた。
「二十三歳のお前も甘たれ坊主だな。」
そう言いながら、笑う涼介。
「メールくれなかったから忘れてると思った。」
「好きなやつの誕生日忘れるほど馬鹿じゃねーよ。」
好きなやつ
そのワードだけで心がいっぱいになった。
「涼介ありがとう。」
「ありがとうはこっちのセリフ。いつも俺を支えてくれて、一番の理解者で、お前と出逢えて本気で良かったと思ってる。生まれてくれてありがとうな。」
生まれてくれてありがとう、なんて初めて言われたかもしれない。
僕は感動して涙がこぼれてしまった。
涼介にバレないように泣いたつもりだけど、隠し事はすぐバレてしまい、笑われた。
「ふは、なに泣いてんのちいちゃん、」
あぁもう、大好きでたまらない。
こんな特別な誕生日は初めてだ。
来年も再来年も、ずっと祝ってね。