Novels

□One Sunday
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黄泉の羽織を着て、今日も百葉箱を覗いた。





中には、供え物もなく一円玉すら入っていない。





腹の虫が鳴り止まぬまま、とぼとぼ自宅(クラブ棟)に歩を進める。






ドアを開けると、畳の上に倒れ込む…前に後ずさりしすぎて壁に背中を強打した。






いるのが六文だけじゃないからだ。







こたつの中で、真宮桜と十文字、そして鳳が気持ちよさそうな顔をしている。






「「「ここから出たくなぁーい…」」」






揃ってとろけた顔をしている。







十文字と鳳は普通に邪魔なので、ミホが自分に押し付けた形で手に入れた俺と真宮桜の写真のうち一枚を取り出した。






「十文字、これをやる代わりに部屋から出てくれ。内職は静かにやりたい」






まずは十文字。チラつかせたのは、当然真宮桜の写真だ。満面の笑みを浮かべた綺麗な写真を手放したくはないが、仕方ない。





十文字はというと、「ど、どこでそんな写真を…!」と嬉しそうに手を伸ばしている。





「…いや、目の前に本物の真宮さんがいる!だが…あぁぁぁ!」








迷った末なのかは知らないが、俺の手元にあったそれをひったくって走り去って行った。






さて、鳳はどうしよう。






数秒考えた後、朧(鳳の契約黒猫)の言葉を思い出した。




蛇が苦手だと言ったか。





偶然にも、自分が蛇の格好をした写真がある。





だが、いつこんな服を着たのかは覚えていない。着る以前に見た覚えがないし。







とりあえず鳳に写真を見せると







「りんねはやっぱりかっこ…ぎゃぁぁぁあ!蛇ぃぃぃい!!」






とか言いつつ、写真は持っていく彼女にため息をつく。








窓とドアに結界ガムテープ(1ロール600円)を貼り、二人が戻ってこれないようにした。







真宮桜は…追い出す理由がない。






だが、とりあえず寝そうになっていたので起こすことにした。








「真宮桜、おい、真宮桜」






「あ、六道くん…お邪魔してまぁす…」






無駄に柔らかい口調でへにゃりと笑った顔が可愛くて、つい見とれてしまいそうだ。







が、それどころじゃない。これでは集中出来ない(目の前の天使のせいで)。
追い出さないにしても、起きてもらわねば。




「真宮桜、頼むから起きてくれ」







「……あ、ごめんね。お仕事手伝った方がいいもんね」







「あ…そ、それは助かるが…帰らなくていいのか?」






今日はお母さんと縫い物をすると言っていたので、振ってみた。

真宮桜はうーんと唸ると、超高級な電話(スマホ)を取り出し、それを耳に当てていた。






「あ、お母さん?ごめんなさい。今日は六道くんと勉強会することになってて…そうそう、この前の男の子。

だから明日で大丈夫?…よかった。じゃあ早く帰るね…あ、はーい」






ピッ、と通話を終わらせると、真宮桜はこちらを見て微笑んだ。






「……なんか、すまないな」






「平気だよー。好きでやってるしー」



そう言って、近くにあった作りかけの造花に手を伸ばす。





せっかく手伝ってくれるというのに、真宮桜の手に触れる造花にさえ嫉妬してしまう醜い自分が情けない。






「……六道くん、どうかした?じっと私の手元見たりなんかして」





「い、いや…」






ほら、今だってそうだ。じっと見るなら触れてしまえば早いのに。






改めて、自分のヘタレっぷりを恥じた。





そう己を責めると手が動き、気付けば手を握っている。





不思議と恥ずかしくない。






申し訳ないとは思うが、手を離したくない。







「…六道くん、手を繋ぎたかったんだね」





「……!」





前言撤回。やはり恥ずかしい。というか、耐えられない。





真宮桜の天然スキルとやら、恐ろしい。





「あ、そうだ」






突然真宮桜はカバンに手を突っ込み、何かを取り出した。





箱を差し出して、にこりと微笑む。





蓋を取ると、なんとおにぎりが三個あった。





一個は六文の分、とのこと。






「来る途中で買ったの。六道くんも六文ちゃんも、お腹空いてると思ったから」







真宮桜の優しさに心から感謝しながら、そのうちの一つをとった。





「……う、うまい!」





お礼をしたいが、今は何も無い。






キョロキョロ部屋を見回すと、一番綺麗に出来た造花が目に入る。





金のためにも必要なものだが、それをためらいなく手に取り、頭に乗せた。






「これは…?」






「礼のつもりだ…本当にありがとう。飢え死にするところだった」






「ふふっ、大げさだよ六道くん」






柔らかい笑顔と声に、また心臓が高鳴った。








その頃六文は、何だか居心地が悪いと感じたので、しばらくれんげの部屋に避難していたという。

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