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□君の知らない物語
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「今夜星を見に行こう」
不意にサトシが呟いた。
ポケモンセンターで食事しているとき、突然そう言ったのだ。
反応に困っていると、タケシがプッと吹き出した。
「サトシ、たまにはそういうこと言えるんだな」
「たっ、たまにはって!」
「アハハッ」
「笑うなよヒカリ!」
「ごめんごめん」
私も、サトシをからかうのを楽しんでたタケシにつられて笑ったっけな。
ポケモン達も連れて、明かりもない道をバカみたいにはしゃいで歩いていく。
当然ながら、暗くてほとんど何も見えない。
そんな中、ふと真っ暗な世界から見上げた夜空。それはもう星が降るようで、とても美しかった。
丘の頂上につくと、星たちが更に映えている。普通に天の川が見えるほどとは思わなかったが。
「あれがデネブで、こっちがアルタイル、んでベガだね」
「あ、じゃあアレが夏の大三角?」
「それさそり座」
ピカチュウとポッチャマが笑いあっている。何を言ってるかは分からないが、そんな感じのことを話してる気がする。
空を見ると、やっと彦星を見つけた。よく見れば目立つなぁ。
でも、それよりも目立つはずの織姫、つまりベガが見当たらない。
「ほらそこ。天の川の向こう岸見てみろよ」
隣で楽しそうに笑う永上に促されて、向こう岸を見る。確かに、あれより明るく輝いている白い星が見えた。
『教えてくれてありがとね』
いつもみたいに言葉にすればいい。
それなのに、あの時の私はなぜか何も言えなかった。
そして、同時にその答えに触れたような気がした。
いつでもどこか遠い地に夢を馳せ、愛しげに空を見た彼を追いかける自分がいたから。
そんなこと知らないだなんて嘘で、本当はずっと分かってたから。
胸を刺す痛みが増してくことで、好きになるってこういう事なんだと理解したから。
ギリッ、と軽く歯ぎしりをしてその痛みを押さえつける。すると突然、
『ヒカリは一体どうしたい?』
心の声がした。
自分に似たそれは、静かに問いかける。
『サトシとどうなりたいの?言うのは自由だから言ってごらん』
何度か口を動かし、心の声に呼びかけた。
「…どんな関係でもいい。私はサトシの隣にいたい」
それに生意気な声は「それ、本人に言えばいいじゃない」と言い返し、軽く笑った。
「でも」
続いて浮かんだのは、理由があるのか分からない二文字。
それを理解出来ぬままに、溢れ出す永上への思いを天海に告げていた。
「物理的に届かない距離にいられちゃ、隣どころか、目を合わせることすらできなくなるんだよ。
そんな中自分の気持ちを思いのまま言ったらどうなるの?それでサトシが、自分の気持ち潰したら、どんだけ後悔するんだろう。
それを考えると、とてもそんなにかってなこと言えたもんじゃないんだ…離れるのが……すごく怖いんだ」
それを考えると、少しずつ心の声は止んでいった。