I GOT

□소년
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夢を見た。俺が今より少し幼かった頃の夢。

夢の中にはジェボム兄さんが出てきて、

幸せそうに笑いながら、

「ヨンジェは綺麗な肌をしているな。」

と褒めてくれた。


あれは確か、数年前にジェボム兄さんが本当にかけてくれた言葉だった筈だ。

今でも兄さんはよく俺を褒めてくれるが、

あの笑顔は稀にしか見ることが出来ない。

夢であの笑顔を見てしまうと、

現実でも見てみたいという欲求を抑えることが出来なくなる。

あの笑顔の破壊力は、きっと誰であろうと凄まじいものだと言うと思う。

自分でも、少し幼稚かもしれないと思うが、

1度思ってしまうと、

どうしても抑えられなくなるものなのだ。

「ねえ、ジェボム兄さん。」

難しそうな本を読んでいたジェボム兄さんの、

ページを捲ろうとした手が止まる。

「ん?」

ちらっとこちらを見るジェボム兄さんに、

ふと思う。

今から俺は、ジェボム兄さんに何をいえばいいのだろう、と。

笑ってみてくれと言われて笑う様な人でも無いし、

俺に兄さんを笑わせられる様なとっておきの秘策がある訳でもない。

「…あ、やっぱりいいです。」

自分の段取りの悪さから、

思わず視線を逸らして言うと、

兄さんは納得したのかまた本に目を移した。

…俺はどうしたいのだろうか。

普段ならぱっと考えが浮かぶはずなのに、

なぜだかジェボム兄さんの事となると、

軽はずみに行動する事ができなくなる時がある。

もやもやとした気持ちに支配されるようで嫌になってくる。

気分を入れ替えようと立ち上がり、

キッチンへ向かう。

色で揃えられた食器の中から2つマグカップを取り出し、

片方にインスタントコーヒーの粉を。

もう片方にココアの粉を入れる。

最近新しくしたばかりのポットにカップ2杯分と、蒸発する分の水を注ぎ、ボタンを押す。

暫くぼーっとしていると、

お湯が沸いた合図の音がした。

ポットからマグカップにお湯を入れ、

スプーンをとりだして混ぜたら、

それを持ってさっきいた場所に戻る。

いつの間にか兄さんは本を読み終えていたようで、

本は閉じられて机の上に置いてあった。

「兄さん、珈琲置いときますね。」

携帯を弄り始めた兄さんの横顔に話しかける。

「ああ、ありがとう。」

携帯の電源を切り、くるりとこちらを向いて珈琲を飲み始めたジェボム兄さん。

相変わらず大人っぽいな、と思う。

まあ成人しているからそれが普通なのかもしれないけれど。

「ヨンジェも珈琲か?」

すんすんと鼻を鳴らしながらジェボム兄さんが言う。

「ココアです。」

カッコよく珈琲を飲む兄さんの手前、

少し恥ずかしい気もしたがその気も一瞬で消え、

今度は苦手な匂いだったかな、とネガティブな考えへと変わる。

「ココアか、ヨンジェはいつでも少年みたいで可愛らしいな。」

珍しくへにゃりと笑う兄さん。

ときめいてしまうのはこの際仕方が無いことだとすら思う。

夢でみた笑顔よりも少し幼いような可愛らしい笑顔がたまらない。

…やっぱり兄さんの笑顔の破壊力凄まじい。

だって、ジェボム兄さんの笑顔一つでこんなに幸せな気分に慣れてしまうのだから。

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