スクイーズ篇

□建前と本音
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 蟬ヶ沢卓のデザイン事務所。ある一室に二人が部屋で作業をしていた。蟬ヶ沢卓とちよである。ちよは女子高生の身分ながらも、ひょんなことから彼の事務所を手伝っている。表向き、二人はデザイナーと手伝いの関係である。
 蟬ヶ沢卓とは、人間として紛れ込むための身分であり、コードネームはスクイーズという。
 普段、彼は女性のような言葉づかいをするが、スクイーズとしてはその言葉を使うことはしない。ちよが統和機構の構成として入ってからもそのスタイルは変えなかった。そのつもりだ。
 今、彼はスクイーズとしての振る舞いの為、女性のような言葉を使わずに話している。女性のような言葉づかいで言われているのに慣れているので、違いに戸惑っている。手伝いで何か叱るときは女性の言葉なのに、スクイーズとしては言葉使いを明確に変えている。ちよは少し彼の行動に違和感を覚えている。まるで無理矢理切り替えている様なのだ。
「おねえ口調」
「ん?」
「やらないの?」
「必要ない」
「おねえ口調の方が指示を聞き取りやすいので、おねえ口調で仰って下さい」
ちよの要望にスクイーズは眉間の皺を寄せて、額を押さえる。気のせいか頭痛が起きたような気がしてならない。
「上司に対する言葉とは思えないな」
「実際、言うほど上司って立場でもないでしょう?ただの私の処理役ですし」
蟬ヶ沢卓としての立場でも上司と部下の関係ではなく、行っている部門が違う上、ちよはこの事務所の正式に雇っている者ですらない。それはスクイーズも知っている。このお手伝いとしてもスクイーズが個人的に頼んでいるので、関係図としては実の所スクイーズの方が下と言うのが正しい。
「あのな……」
「今の口調でいわれていると念仏でも唱えられているみたいで、どうにも眠くなってしまうんですよ」
ちよはわざとらしく、あくびの真似をする。
「要はつまらないと」
「そ」
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