スクイーズ篇

□手を汚す時
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 街灯の色が暖色だと犯罪の発生率が高まると言う統計結果がある。ある地域でひったくや不審者の多い道があった。そこの道の街灯の電球を橙色から青色に変えたところ、犯罪の発生率が減ったと言う。
 ちよはため息をついた。携帯端末を操作するふりをして、ちらっと後ろの男を鏡越しに見る。男はナイフを持って、こちらを見ている。この状態を街灯の灯りのせいにするつもりはないが、たまたまスクイーズの迎えが来ない時に遭遇するとはついていないとちよは心の中で愚痴る。
 男の存在に気が付いたのはついさっきだ。携帯端末で後ろを確認しつつ、スクイーズに連絡をする。音声では男に気付かれる為、文章で送る。返事は十秒も経たぬうちに来た。
『直ぐに向かう師弟する場所まで来て、なるべく早く来る』
誤字を見つけてちよはくすくすと笑う。不審な男に付けられているちよよりもスクイーズの方がよほど焦っている。苦笑いをして顔がゆるむが、すぐに気を引き締める。
(さて、この状況をどうやって打開するかな。能力を使っちゃうとシステムに消去されるだろうからなぁ。スクイーズも使って欲しくないって言っていたし…)
 能力のハンデを除くと、ちよは形勢が不利になると思われそうだが、それなりに対策はある。これまで様々な本を読む中で、柔術や合気道、ある程度の格闘の知識は入っている。時折スクイーズに頼み、技の相手をしてもらっていた。相手になるときは渋々承諾していたが、技の相手が終ると、スクイーズは必ず言っていた。
「出来るならこんなことは教えたくない」
まるで初めて人殺しをしたような顔で苦い顔をして言う。
「これじゃあ人殺しなんて出来ないよ」
けらけらとちよは笑うが、スクイーズはこのときは絶対に笑わない。
「殺しなんてさせない」
「それは任務の内に入っているの?」
スクイーズは答えなかった。
 ナイフを持った男はちよのいる方向へゆっくりと歩きだした。膠着した状態に男が痺れを切らしたのだろう。あるいは周りに人がいないと確信をしたともいえる。
(相手も私が尾行さていると気付いているって気付いているんだろうな。たぶん、迎えの人間が来るのも悟っている)
 ナイフを持った男にはどうやって対抗しようか考える。スクイーズが指定した場所までまだある。ここは走ってでも行くべきかもしれない。
 ちよが走ろうとした時だ。
 男とちよの間に一台の車がドリフトで突っ込んできた。スクイーズの車だ。
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