スクイーズ篇

□助手席の君
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 平均年齢が成人を越すなかでの未成年はひときわ目立つ。蟬ヶ沢のデザイン事務所で唯一未成年の人物がいる。正式な職員でもないかといって誰かの親戚でもない。誰かが迷子を見つけて保護として連れてきたわけでもない。保護で連れてくるような年齢でもないのだ。
 唯一の未成年のちよはデザイン事務所で噂になっている。何年も前からこの事務所にいて仕事の手伝いをしているが、正式な職員ではない。人事部でもデータベースは載っていない、ほぼ無関係の人物なのだ。名前が出るときは手伝いをしたとき、アルバイトとして隅の隅に書かれる。
 なんとも説明しがたい人物で、女子高生ともなると男性職員のいい興味の的である。

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 事務所には蟬ヶ沢もちよもいるが、別の部屋にいる。所謂デザインするための部屋だ。職員は5人ほどそれぞれ書類をまとめたり、調べたり、急用ではないが消化した方がよい依頼をこなしている。
 二人がいない部屋である職員が二人に関して話始めた。
 部屋は扉がないので、それなりの声量で言えば廊下まで聞こえるだろうが、上の階までは届くことはない。普通の人間ならば。
 人事部の職員がぼそりと呟いた。
「ちよって、セミさんの何なんでしょうね」
話しかけてきた人物の隣の職員が聞き返す。
「何って?」
「ほら、娘さんて訳でもないのに、なんでいるんだろうなって」
「それもそうだな」
「あんな言葉遣いだから、あっちが好きなのかって思っちまうけど、そうでもないし?」
蟬ヶ沢は女性の言葉遣い、いわゆるおねえ言葉を使う。おねえ言葉を使うだけで、彼の好みが同性なのかは職員でもいまだ謎である。職員も特に気にしていない。
「まさか彼女だったりしてな!」
「年の差ってやつか!」
蟬ヶ沢はどう見ても中年なのだ。年の差としてはなかなか離れている。
「そうでなかったら、誘おうぜ!」
「あなたたち聞こえているわよ」
いつのまにか蟬ヶ沢が彼らの近くに来て、べしっとゲラゲラ笑う男達の頭をボードで叩いた。

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