スクイーズ篇

□帰り道
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 授業中、ちよは教師の説明を聞かずに自分で内容を進めていた。
「ふむ……」
順調に進んでいた手が止まる。教科書のコラムに乗っている問題が解けない。教師に聞いても良いが、この手のは進学に無関係だと突っぱねられるか、興味を持ってくれたと喜んでやたら長く説明をしてくるので、あまり聞きに行きたくない。
 教科書のみでは不明瞭なところは図書室で資料を探すことにした。
 携帯端末から自分の学校の図書室の検索サイトを閲覧する。残念ながら、ここの学校には欲しい資料は置いて居ない様だ。近隣の書店にあるか探す。在庫状況は分からないが、入荷をしていたことがあると判明した。ここで、携帯からメールが届く。この時間に送ってくる人はあの人しかいない。
 画面を見ると差出人は蟬ヶ沢と表示されている。
「今日は山の下の駐車場で待っている」
普段の語り口調とはかなりことなった固い言い方だ。
「帰りに本屋に寄りたいけどいい?」
そう返信して返事を待つ。送信して三分ほど過ぎると返信が来た。
「了解。あまり遠くまではいかないからな」
「ありがとう」
連絡を済ませると、授業を続ける。用を済ませて携帯を仕舞う。携帯を見て呟く。
 このやりとりも何回目だろうか。

****

 携帯を初めて持って、親よりも先に彼に電話を掛けたことを思い出す。
 初めて押すコールボタンに緊張が走り、出てくるまでの時間が長いような早かったような、留守電に繋がるほどは待ってはいなかったはずだ。家で掛ける電話とは違い、どこでも通話が出来ることに親に秘密を持ったようでこそばゆかった。
 携帯での通話だとあまり長い時間を掛けて話すことが出来ないので、主にメールでのやりとりが主流となった。特殊なソフトを入れれば通話の制限を気にせず出来るが、彼はそのソフトを入れていないらしい。彼とのやり取りは主にどこかで落ちあう為の連絡手段としてなので、あまり不便さは感じていない。
 彼と放課後に落ち合うことがあるが、彼は私と違って学生ではない。歴とした社会人である。少なくとも初めて会った時点でそれなりの年を重ねていたので、十以上は確実に上であろう。年齢で言えば中年に当たるのだが、服装が常におしゃれであまり年齢を感じさせない。お洒落なのも当然というものか、彼の職業はデザイナーなのだ。
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