スクイーズ篇

□おねだり
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  現在蟬ヶ沢事務所は修羅場と化している。決して恋愛による諍いではない。単純に仕事が忙しいのだ。この修羅場の雰囲気を出しているのは一人だけ。事務所には人がほとんどいない。それどころか、厳密には二人しかいないのだ。
 その二人の内のちよは机に伏している。

「休憩しましょうか。というか、ちよは来なくて良かったのよ。これは私の持ち仕事だし」
「いいよ、どうせ暇だったし」
「お盆ならご家族と親戚の家に帰省するとかするもんじゃないの?」
「私は断ってきた」
「せっかく会える機会が少ないんだから会っておきなさいよ」
「隣町にいる親戚なんだから、別にいつでも会えるから、わざわざお盆でも合わなくていいよ。どうせ行っても、親戚同士で飲み会をしてばかりだろうしね」
「そう?」
「なんか嬉しそうね」
「そりゃそうよ。こうして仕事を手伝ってくれる助手がいてくれるのはありがたいもの」
「こき使う気満々。過重労働反対。労働基準法違反。セクハラ常習犯即逮捕」
「変なこと言わないで。セクハラはしていないでしょ。まだ」
「セクハラ予告って斬新すぎるでしょ」
「だめ?」
「………時と場所は選んでよ?」
「人もいない、私は今疲れているわ」
「ここは職場です」
「だめ?」
あざとく甘ったるい声でねだる。
 私は溜め息をつく。彼も私も解っている。
 ちよは身を乗り出し、蟬ヶ沢の口に一瞬だけ重ねる。
「やる気でた?」
「それはもう」
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