スクイーズ篇

□月見草
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「ねえ、ちよどっちがいいと思う?」 
 私よりもだいぶ歳を食っているはずの男は酷く情けない面で相談してきた。相談ごとというのも十代をメインとしたターゲットとして企画されたもので、同じ十代の私に相談して需要と供給を合わせたいらしい。
 アクリルキーホルダーとラバーストラップか。
 どっちで作ってもこのデザインなら誰も買うんだがなあ。強いて言えば、同じ画像の使い回しが多いので別の画像のカットをクリアファイルにした方が売れそうだ。
 しかし、私は答えるのを少しためらう。いくら年齢層が一致しているとはいえ中学生の身分で仕事の一つを決めているのはどうかと思うが、パソコン処理の件や、年齢層ごとの好みの的中率を買われて、謎のアルバイトみならいというポジションとして蟬ヶ沢の事務所にいる。
 この事務所に来た経緯を説明すると大変複雑なのだが、とりあえず大本がこの蟬ヶ沢卓というお偉いさんによって招かれた口なので、他の従業員からはとやかく言われない。
 むしろ、来た当初の私が幼い子供過ぎるあまり甘やかされた感がある。
 ここに来たのはいつものごとく、パソコン処理の手伝いとしてだが、もう一つ少しだけ別の用事にもならない用事がある。
 新規で別の商品も提案すべきか迷い、髪飾りを弄る。
「いつだったか、ちよが決めた方が当たったのよ。勿論、他の人の意見もが多かったら採用したのもあるけど、逆に人気がなさそうだと思っていたのも当てていたし。どういうことなの?」
「あーー」
私は天を仰ぐ。
 私の能力としては、人の意識の向きが見えるというらしく、最近の女子高生あたりはよく見ているなと思ったものを言っているだけで割とあてずっぽうなのだ。しかも、私の好みは少し王道するぎて人気がないもの、このオネエ言葉のデザイナーが手がけたもの。後者はあとからじわりじわりと人気が出るタイプ。
「正直どっちも同じくらい」
「それはそれで微妙ね」
「もう少し加工してみたら?夏に出すんでしょ?」
「そうね。じゃあ他のパターンも入れてみましょうか」
 にっこりと笑って私の頭を撫でた。

*****

 帰り道、蟬ヶ沢は少し寄りたいところがあると言って、雑貨屋に入った。
 帰りを待つ間、自分の髪飾りの位置を少し運転席側に寄せる。
 蟬ヶ沢が戻ってくると、髪の毛を整える。
「今日もありがと。そうそう、過ぎちゃったけど、バレンタインのお返し」
そう言って手渡してきたのは桃色の月見草の髪飾りだった。
 思わず目を瞑ってしまう。
 かわいい。
「その、だめだった?かわいいなと思ってたんだけど……」
「それ、なんでもない、ありがとう」
 余程つけてほしかったのか、早く早くと急かす。
 貰った髪飾りを付けると、蟬ヶ沢は両手を合わせて喜んだ。
 同じデザインでオレンジ色の髪飾りにこの人は気付いてくれなかったらしい。
 いっそこのおじさんにつけてやろうとかと口を尖らせ、睨む。
 一瞬、付けた髪飾りを見られた気がした。
「移り気なんてしないでよ」
「なんのこと?」
「……なんでもないわ」
蟬ヶ沢は急に視線を逸らして、車を発進させた。
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