スクイーズ篇

□飴玉
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 新作の飴を見つけた。新しい物、珍しい物にはすぐ気が付くのはもはや自分の特殊能力ではないかと疑うくらいよく見つける。
 袋を開けて、パッケージを眺めつつ、飴玉が一つづつ入った包装紙を眺める。シャボン玉なのか、飴玉なのか、半透明でパステルカラーの丸い模様が大小混ざっている。

*****

 作業場の隣を除いて隣人の様子を伺う。今は作業を終えて、単に仕事に関係ない資料を眺めている。
 ちよはフェイク・シーズンで元々見えていたのを更に視る。今の所誰もおらず、この作業場に来る気配もなく、この場には蟬ヶ沢とちよしかいない。
「セミさんに差し入れ」
 隣人に新作の飴の差し入れする。差し入れと言ってもちよがデザイン事務所に来る前に買ってきた物で、何個か減っている。
 蟬ヶ沢は見ずに手だけくれと言わんばかりに差し出す。
「ありがとう。頭を使いすぎて疲れてきたところだったから助かるわ。何がおすすめ?」
「あったけど、ラストは私が食べている」
「ちょっと、それはお薦めに外しなさいよ」
「食べてから気付いた。なんならまた買うって」
「他の食べてもそれがどれだけ美味しいか気になるわ」
「甘すぎてセミさんにあげたいくらい」
一瞬、意地悪そうな笑みを浮かべたのが見えた。
「じゃあ頂戴よ」
 元々距離が近すぎてちよは反応が出来なかった。
 呼吸を止められた。
 瞳孔が開き、
 心臓が騒ぐ。
 腕が振るえ、
 息が混ざり、
 息を吸おうとすると隙間は塞がれる。
 離れたと気づいたのは口の中に入っていたはずの飴玉が無くなった後だ

 離れたというよりは触れてないだけと言う方が正しい。二人の唇の距離は一センチにも満たない。だからちよにはまだ触れているようにも感じた。
 奪われた飴玉が混ざった唾液にまみれてちよの口に掛かっていることなぞ意識出来ない。
「確かに、甘いわね」
 口もとは見えないが彼は満足そうに笑っているに違いない。
 彼は相手の甘ったるい唾液が付いた唇を舐め、軽く重ねる。
「ごちそうさま」
「はいはい、お仕事頑張ってね!」
 飴玉が入った袋を蟬ヶ沢にぶつけるが、意に介することなく彼は快活に笑って仕事を再開した。
 
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