頂きもの

□肖像
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「学生限定のコンペ?」
「そう。折角だから、貴女も挑戦してみない?これは今しかできないんだから」
 そう言って蟬ヶ沢の差し出したリーフレットを受け取る。
「でもわたし・・テーマに沿ってデザインするなんて、今までしたことないんだけど?」
 インスピレーションに従って思うままに描くのとはわけが違うのではないだろうか?
「難しく考えなくても大丈夫よ。貴女の思うこと、感じたことを素直に表現すればいいのよ。それにこれは、明確なテーマがない代わりに、貴女の個性を生かせると思うのよね・・。ね、一度考えてみて?」

 蟬ヶ沢の勧めたコンペというのは、某画材メーカーが主催するもので、『当メーカー製品をメインに使用した平面作品。支持体の指定なし。キャンパスサイズ等の指定なし。ただし、10キロ以内の移動可能なものならば可。画材はアクリル絵具で、目安としてキャンパスサイズはF20以内(727mm×606mm)』というものだった。
 しばらく考えてみて、結局は卒業制作にもなるからと挑戦することに決めた。ただし、放課後学内に残って制作するつもりが、なぜか猛反対された。
「学校に残って制作なんてダメよ!帰り道に変質者に狙われたらどうするの!?絶対許しませんからね?描くなら私のアトリエでなさい。いいわね?」
 そういうわけで、結局蟬ヶ沢のアトリエで制作することになった・・。あれこれ世話を焼かれるかと思っていたのに、意外にも最低限のことしか口を出されなかった。

 月曜日から金曜日まで、授業が終わると、学校近くの喫茶店で待ち合わせをして、蟬ヶ沢のセーフハウスに車で向かう。
「さ、どうぞ」
「お邪魔します」
 彼のアトリエも、部屋と同じくきれいに片付いている。あるのは、イーゼルと小さな木製のテーブルと同じく木製の椅子。そして部屋の隅にキャビネットが一つ。そのそばの壁にはキャンパスがいくつか立て掛けられていた。
「ここにあるものは好きに使っていいから。そうね・・何を描くかは決まったかしら?」
「それは・・」
 言えない。セミさんがモデルなんて・・。しかもヒーローだなんて!
「まあいいわ。じっくり考えて」
 と、片手をヒラヒラさせながら、あっさりとアトリエから出て行ってしまった。
「さてと・・」
 テーブルの上に持ってきたスケッチブックを開き、椅子を引き寄せた。

<end>
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