頂きもの

□Lucky charm
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「社長、三番にお電話です。河北さんからですよ」
「あら、そうなの? お待たせしました。蟬ヶ沢です。・・・・・・そう。構わないわよ。ええ、それじゃ、十一時五十分にね。お昼は外で取ってくるわね。十三時からの打ち合わせまでには戻るから」
「承知しました。お気をつけて」
 打ち合わせに必要な端末と車のキーを持って事務所を出る。駐車場へ向かいながら、私は初めて彼女、河北ゆうきと出会った時のことを思い出していた。



「・・・・・・ですから、アポイントメントがございませんと」
「そんなこと言わないでお願いします! ちょっとでいいんです!」
「・・・・・・何を騒いでいるの?」
 出先から戻ってみれば、受付で小柄な少女が事務員と押し問答しているのが目に入った。まぁ、内容自体はかなり前から聞こえていたのだけど。
「あ、社長! お帰りなさいませ。それが――」
「蟬ヶ沢先生! あたし、先生のファンなんです。先生に憧れてデザイナー目指しています。この間の作品も拝見しました。すごく素敵でした!! で、先生の作品見てたらあたしも何か創りたくなっちゃって。それで・・・・・・」
 と抱えていた大きな紙袋から中身を取り出した。
「・・・・・・へえ。これってもしかして、この間の作品のオマージュということかしら?」
 自称デザイナー志望の少女とその手が抱える作品を見比べる。細く長い指はとても器用そうで、模型をつくったりするのには向いていそうだった。ただ、あまりにまっすぐ過ぎる気がする。ストレートにファンだと言った笑顔は、物事に裏も表もないと思っているような、純粋すぎるところが弱点になりそうだと心配になった。それでも、まっすぐに自分の作品を好きだと言われたことに悪い気はしなかった。
「そうなんです!! あたしは空間を創るのが好きなので、インテリアデザイナーになれたらいいなぁって」
「ね、午後は確か十三時から打ち合わせが入っていたはずよね。それまでには戻ってくるから」
「え!? 社長? お食事は?」
「外で済ませてくるわ。あぁ、貴女もいらっしゃい」
「いいんですか!? うれしいです!!」

 カフェに着いたのは、待ち合わせの時間ぎりぎりだった。
「いらっしゃいませ」
「先生、こっちです」
 先に着いていた彼女がさっと立ち上がり、右手を挙げて声を掛けてくれる。
「ひさしぶりね。色々と噂は聞いているけれど、どうなの?」
 入り口から中程に位置する二人がけの席だった。ランチタイムということもあり、相席を避けるために自身のバッグを置いていたのをどかしてあけてくれた。
「話半分ってところですかね〜。お久しぶりです、蟬ヶ沢先生」
 軽く頭を下げ、茶目っ気たっぷりに笑った彼女。何年ぶりだろうか。同じ業界で仕事をしているからと言っても、畑違いなせいか意外と顔を合わせる機会は少ない。そんな彼女から突然電話をもらい、このカフェで落ち合うことにしたのだ。
「それじゃ、詳しく聞かせてもらいましょうか」
「はい。急なお願いだったのにお時間つくっていただきまして、本当にありがとうございます」
「いいのよ。ちょうど外で食事しようと思っていたところだったから。それで?」
「ええっと、急な話なんですけど、実は近々友人が結婚することになりまして、その引き出物のデザインを来月末までにお願いできないかと思いまして・・・・・・頼まれたのはあたしなんですけど、ちょうど今かかっている仕事と納期が重なってしまったのと、あたし自身も新婦の方から招待されているし、何より彼女が先生のファンだから、という理由からお願いしたいと言いますか・・・・・・」
「結婚式の引き出物? それを私に?」
「・・・・・・やっぱり、急すぎますよね。すみません」
「ちょっと待ちなさい」
 立ち上がりかけたゆうきの手を取り引き留めた。
「え?」
「受けないとは言っていないわよ?」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」

<end>
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