スクイーズ篇 二門

□痕跡
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「出てきたら誰もいないってどういうこと?」
「早上がりさせたのよ」
 事務所から出た頃には退社時刻になっていた。
「折角の平日休みだったのにごめんなさいね」
「そう悪くなかったよ?事務所で寝るなんて初めてだった……し」
 歯切れの悪い言葉の先に、片付けた事件現場があった。
「ねえ、セミさん」
「なによ」
「あんなにものが綺麗だったけ?」
 ポリモーグが本当に記憶を消さずにいたのかとつい疑ってしまう。
 心拍数が上がる。つい彼女の手に、皮膚に触れないようにする。触れなければ彼女には蟬ヶ沢の心の流れは視られることはない。
「掃除してたのよ。ここ最近ゴタゴタしてたことがなくなったし、ちょうど良かったわ」
「…………そう」

*****

 蟬ヶ沢が車を停める駐車場の近くに見知った人物が店を出していた。
「よう、お二人さん、占いはどう?」
「ポンちゃーーん!」
「ちよー!」
 お互いに両手を広げて抱き合う。ポリモーグがやや背が高いので、姉妹のようにも見える。
 ポリモーグも記憶を消したことに合わせて、さっきの出来事はなかったこととして併せてくれている。
「ここには慣れた?」
「そのうち慣れるけど、そろそろベッドで寝たい」
「定住先の手配までホテル暮らしは厳しそうなの?」
「なるほど、その手があったわ」
 同胞が一瞬にやりとこちらを見て笑った。
「そうそ、占いだよ占い。お二人さん、やっていかない?」
「占いなら間に合っている」
「良いじゃん、占いくらい。仕事に付き合うのも近所付き合いってやつだよ」
 ちよが他の合成人間とも仲良くするのは今に限ったことではないのだが、もう少し距離感を置いてほしく思う。
 相棒の警戒心の少なさに呆れてはいるが、スクイーズが誰よりも距離感が近いことには気づいていない。
「占うってなにするの?」
「何されたかふわっと当てて、その反応からそれっぽい問題解決言ってくだけ」
「ええ、コールドリーディングとか夢がない」
「でも、前半の当てるくだりは自信あるよ。この能力も意外と仕事に使えんのよ。ま、仕事とかないほうがあたしは嬉しいけどね」
 自信たっぷりにウインクする。ちよの手を包み、ぱりぱりと手からスパークが走る。
「……額と掌、それとうなじになんかされた?」
「なんもされてないよ?」
「神経伝達の記録じゃあ、なんか反応してんだよねえ。……………ねえ、スクイーズ」
「ちよを送っていく」
 素っ気なく言い放ち、乱暴にちよの手を掴んで、ずかずか車に向かう。
「あんたのも占わなくていいのー?当たるよー?」
 ニヤリとしながら、両の掌を見せる。
「あ、うなじなら」
 ちよが何か言いかけたが、背や汗をかいて必死な形相になった蟬ヶ沢に止められた。
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