スクイーズ篇 二門
□お迎え
1ページ/1ページ
『スクイーズ編』小ネタ
蟬ヶ沢が女性を車から降ろす際、お嬢様を迎えるように手を差し出すのは珍しくない。
ちよにも例外なく、幼いころからずっとしてきたことだ。
そんな彼女も中学に入ってからは少しずつ手を差し出されてもやんわりとだが断るようになった。
お年頃だなと、納得と同時に寂しさを覚える。
今日からは止めてみようか。
蟬ヶ沢はちよを家まで送り届けると、扉を空けて降りるのを待つ。
しばらくしても、車から出る気配がないので車内を覗くと、彼女はまだ車の中にいた。
「……ん」
ちょっとだけ赤い顔でそっぽを向きながら、手を差し出していた。
なんと声をかけようか。
意地悪く「嫌じゃないのかしら」と言ってしまおうか。
なんて言おうか、考える合間も自分の顔もだんだん熱さを増している。
ちらっとちよが蟬ヶ沢を見る。期待と不満が混ざった口を尖らせた顔は「まだですか」と訴える。
三秒視線を逸らして再度ちよを見るが、彼女はじっと蟬ヶ沢に訴える。
「…………」
咳ばらいをして、ちよに手を差し出して車から降ろす。
彼女は怒ったように蟬ヶ沢を睨むが、彼は内心顔がゆるんでしまうのを我慢しているせいでまったく気付いてない。
お嬢様のお迎えスタイルの廃止は撤廃することにした。