スクイーズ篇 二門

□今、「幸福」に触れている
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 蟬ヶ沢とちよの帰路は異なるが、送って行く為に一緒に退社することが多い。事務所の職員から怪しい交際だの、不倫だの、からかわれながらも仲の良さは知られている。
 表向きに説明されている親戚関係が本当にないと知られれば、どう見られることか。
「流石に寒くなってきたわね」
「ほんと温かいものが欲しくなってきた。トリスタンでコーヒーでも飲まない?」
「それも良いけど、暖まるならこっちの方がいいわよ」
 蟬ヶ沢がちよを抱きすくめる。
「ちょっと、セミさん!」
「あー、幸せ……」
 合成人間として知られてから、気安く触れることも増えたが、罪悪感もあるがやはり嬉しい。
 小さいころから見れば大きくなったが、頭一つ半分の高さになった今でも小さいと思う。
 相棒としては頼れるが、この肩の細さを感じると守らねばと思ってしまう。
 守れるなら最後まで。
 ぎゅうぎゅう腕の中に閉じ込める。
 温かいし、良い匂いはするし、トリスタンに行くことを忘れそうだ。
「熱い」
「温かいでしょ」
「熱いって」
「任務の時はざらじゃない」
「……」
「任務以外ではしない方がいい?」
背中に手を伸ばしたまま、指でさするとびくっと震えた。
「……」
「……ちよ?」
 腕を放すと、ちよはへなへなとへたりこんだ。
「セミさん、熱い!」
「ご、ごめんなさい。でも、熱いって、そんな体温変わらないじゃない」
「熱かった!」
「……そ、そう?」
「……熱かった」
「真っ赤よ。風邪引いたんじゃない?」
額に触れようとすると避けられた。
「トリスタンに行こ」
「でも体調」
「いいの!熱いならアイスコーヒー飲むから!ほら!行こう!」
「ええ……、風邪っぽいなら」
「いいの!ほら!」
背中を押され、喫茶店に連れて行かされた。
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