スクイーズ篇 二門

□そこに座るのは貴女だけ
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 令と朱巳とちよの三人で会合。
「スクイーズって浮気するの?」
「そもそも誰と付き合ってんのか知らないんだけど」
「ちよでしょ」
「付き合ってないっての」
「でも、付き合ってるライバルがいたら気にならない?」
「ちょっと聞いてくる」
「待ちなさい。素直に聞きすぎ」
「そうそう、朱巳を見倣いなさい。嘘の天才よ。カマを引っ掻けなさいよ」
「……。そうよ、ここはあたしが浮気を見抜く調べ方を教えてあげる。いい?それをした直後の言動に注目なさい」
「ええ、やるの……」


「ウェザー帰りますよ」
「彼氏が来た」
「ちよがんばんなさいよー」
「うっさい!」

***

 レインの指示で集まってみればただの女子会だ。
 あの場で彼女が何を言われていたのかは気になるが、プライベートなことに関わりすぎているので聞くに聞けない。
「セミさん、この間寝てたときになんか女の人の名前を言っていたけど、誰?」
「ちよじゃなくて、別の人?」
「別の。聞いたことがない人」
「………仕事関係かシステムか………。あるとすれば、ブリットヘッドかしら。人間名は琥衣ちゃんて言うのよ」
「へえ、初めて聞いた。任務で一緒に仕事しそうなの?」
「違うのよ。彼女の任務かでの監視体制が参考に……」
「なんでこっち向くの」
「……………………………。やっぱ止め」
「そこまで話しておいて、酷い!」
「彼女はリセットの管轄でホルニッセの部下だから、それだけ」
「……」
「それだけよ」
「……」
「貴女と組むことになるなら性格的には相性が良さげねってだけ」
 足元になにかがキラリと光った。

 からんとちよの足元にピアスが転がってきた。蟬ヶ沢が拾うより先にちよが拾い上げた。
「セミさん、ピアス落ちてる。誰かの?」
「ん?ちょっと貸して」
「………」
「……材質はドラッグストアや若者向けの雑貨屋にあるような素材ね。それでいてこのデザインも十代向けな好みだし。もしかしたらあのお店かしら」
「…………」
「…………。ちよ、ちょっと耳貸して」
「……え、いや、ひゃっ」
「……似合うけど、私が贈るならもう少し違うのがいいわね」
「それで、どうしようこのピアス」
「乗せた人の誰かだと思うし、預かるわ」
「それじゃあ……お願いします」
「ああ、そう」
「なに」
「ピアスを開ける時は聞いて。傷口の消毒や処置はやるから」
「お母さん」
「お母さんなら、このピアスは誰に貰ったのか気にならないと思うけど」
「お父さん」
「………。まだ嫁にはやらせないわね」

***

「………セミさん、携帯貸して」
「どうぞ。終わったら鞄に入れてね」
「…………。セミさん彼女いる?」
「ちょっと待ちなさい。今の流れでどうしてそんなことが出るのよ」
「朱巳と令がセミさんが浮気する以前に彼女がいるのか論争になったから、調べろって」
「……貴女はちょっと素直すぎるわ」
「触りながら聞けば解るけど、それはなんか嫌だし」
「……まあ、そうね。彼女はいない。いないわよ」
「やっぱり?私の言った通りだったじゃない、朱巳ってばもう!」
「はいはい、携帯もあるんでしょ。家に着いたんだからさっさっと帰る」
「はーい。今日もセミさん、ありがとう!彼女も彼氏もいなくて安心したわ!」
「どっちもいないし、未定よ」
 しっしっと手を振って追い払うように帰らせる。彼女が玄関の都を閉めるのを確認すると、自動販売機で缶珈琲を買う。
 片方だけのピアスを取りだし透かす。
 このピアスは何年か前に量産されたもので、蟬ヶ沢が手掛けたものだ。
 彼女はデザイナー蟬ヶ沢のファンでもあるので、持っていてもおかしくはない。
 本人も何をもってこれを持っていたのかは不明だ。
「…………助手席に乗せてるの貴女だけって、いつ気付くのかしら」
 ため息をついても、既に家にいる彼女には届かずゴミ箱に入る空き缶の音に掻き消されてしまった。
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