スクイーズ篇 二門

□貴女の寝言が聞きたい
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 理不尽に降りかかった問題も片付き、仕事を終えることが出来た。時計は見ていない。疲労感からも何時間かは分かる。視界の端で見えた時計からも誤差が生じていないのが分かった。予想外はこの背骨だ。背伸びをした骨は合成人間が耐えられる疲労にしては大きく鳴った。
「……………」
 合成人間でも疲労の限界がある。一般人よりは働きすぎたのだ。
 戦闘こそしてなくても疲れるものは疲れる。
 自分に言い聞かせながら立ち上がり再び鳴る腰の音に、思わず振り返り背中を見る。
「……………」
 寝室の様子を見ると、さきほどと変わらずちよが寝ている。
 ぺらりと布団をめくり、静かに戻す。
 一緒に寝るのを断るのは今さらではあるが、同じ布団に入るのは不味すぎる。  
「…………………」
 ちよは健やかに寝ている。悪夢も見てないだろう。
 車に乗せた時の寝顔と同じ緩みきった安心して寝ている顔だ。
 ベッドの左側にそっと体を沈める。沈み込みにより彼女の体がこちらに傾き、静かにもたれ掛かった。
 起きていないか一分ほど固まったまま、様子を見る。布団から出ている手に重ね、組み合わせる。
 初めてあった頃と比べれば大きくなったがそれでも蟬ヶ沢の手のひらに収まる大きさである。健やかに過ごせてきた時間と同時にスクイーズが断ち切れなかった情けない猶予だった。
 不本意な形ではあってもまだシステムへ入り二年近く経つ。
(スクイーズを怖がらないのは嬉しいけど、でも私といて嫌にならないかしら……)
 システムへの闇へ潜り込ませない為の監視も、彼女からすれば嫌な任務と結び付く人間として思いかけない。
 寝言で呼ばれる時は期待もあるが恐怖もある。悲しませてないか、怖がらせてないか。蟬ヶ沢と会わなければ、システムに入ることもなかったのではないか。
 他人には監視だの親戚だの言い訳をしてきたが、離したくなかったエゴで繋ぎ止めているにすぎない。
 彼女の好意に甘え、蟬ヶ沢の手元に置いてしまう。
(……もう少しいなさいよ)
 絡めた指をさらに深く絡め、握ると握り返してくれた。
「……ふふ、せみさん」
 布団越しに背中合わせ、後ろの温もりを感じながら眠りに落ちた。
 
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