スクイーズ篇 二門

□こんな奇妙な関係は他に見たことがない。
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 授業の終わりを告げる号令が聞こえたと同時に一人教室から飛び出すように出ていく少女がいた。
 壁を隔てた教室から教員の呼ぶ声と友人のからかいの声が聞こえ、冗談交じりにそんなんじゃないと否定し、階段を下りる。
 校舎を下りる階段も三階もあれば時間がかかる。移動の時間惜しさでつい携帯の画面を見ながら下りていく。
 携帯にはなにも連絡の通知は来ていない。
 いつもならば授業終わりには来ているはずが、彼らしくない。
 こちらから送ればいいやとメッセージ画面を起動し、足がぐにゃりとバランスを崩す。
 目が見開き、数段したの床をただただ眺める。
 メッセージを送らなきゃ、床にもぶつかる、でも。
 真っ白になりかけた頭は携帯を胸に抱きしめ、落下していく。
 痛みはない。固い床の感触はなく、体は柔らかい感触に包まれている。
「……ったく、危ないからやめなさいって前も言ったじゃない」
 やたら洒落た服装の中年男性は女性のような言葉遣いで叱る。
「……」
「怪我はしてない?びっくりしたわよ。携帯抱き締めて飛び降りてきたんだから」
 男性は少女の怪我がないことを確認すると頭を撫でた。
「今日、連絡なかった……」
「私も学校に来る予定があったもの。ついで一緒に帰ろうと思ったのよ。先生から聞かなかった?」
「え?」
「今日の授業の終わりに待っていてくださいって伝言頼んだのよ。……聞かずに飛び出してきたってところかしら」
 にやけた顔にたまらず彼の両頬を思いっきりつねる。
「……お前の伝言、必要あったか?」
 上階から先の授業の教員が彼に話しかけてきた。
「ああ、あった。次からは教えないで来る」
「ちゃんと教えて!」
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