スクイーズ篇 二門
□白鳥と鷺鳥
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7.スターリースノー
TBDを見送った後、静かに海岸を眺める。
鑑定していたカチューシャもTBDの死体の証拠として受け取った腕を持ち帰って、この場にいるのはスクイーズとちよだけだ。
「寒い」
後ろにいる相棒にもたれて、ジャケットにくるめてくれないか期待する。
期待通りジャケットごと腕で包み込んでくれる。
やっていることが傍から見れば通報ものだとは自覚しているのか、スクイーズはあたりを見渡す。この地域はさっきまでTBDとカチューシャと戦闘が行われたせいで白銀の世界がやや土まみれになっている。
人ひとりいないことはちよの能力でもわかっているのだが、それでも心配らしい。
「誰もいないし安心してよ」
「誰もいないからって人の服に手を突っ込むのか」
「触れなきゃセミさんの中にあったファイアー・クラッカーを除去できなかったんだし。……てか、セミさんに戻ってもいいんじゃない?」
普段の彼の口調は女性のような、行ってしまえばオネエ言葉と呼ばれる話し方に当たる。この話し方はいわば任務用の話し方であり、現在が
任務後ならば話し方を戻してもいいはずだ。
「朝まではこうしている」
「変なセミさん」
「変なのはちよだろう。こんなやつとこんなところまで」
腕が軽く締め付けられる。
「好き好んで“こんなのと”いるだけ」
「…………」
「悪くないと思っているよ」
スクイーズを押し倒し、雪原に人型をつける。
腹に乗るちよはスクイーズの横に転がる。
空は晴れて満点の星、風に流れて粉雪が舞い上がり振り落ちる。
空から削り出された星が落ちてきたようだ。
「少なくとも、セミさんのままじゃこんなところに来れないし、一緒に見れないじゃない。だから悪くないと思ってるし、好き好んで一緒にいる」
「…………」
スクイーズが咽る。
「セミさん大丈夫?また雪が肺に入っちゃった?」
苦笑いながらスクイーズの肺に入った雪を取り除こうと手を伸ばすと、逃げられた。
「今度は手とか一部だけ触れば十分だって」
スクイーズはそっぽを向いたまま、黙っている。
「……セミさん?」
覗き込もうとするとスクイーズが覆い被さってきた。大の大人の重さに押しつぶされ、呼吸が苦しくなる。
「セクハラ反対!」
「さっきのお腹に触った件で相子だ」
***
朝日が山から登り、スクイーズとちよは二十四時間運営されている図書館に戻る。
ちよが雪玉を投げてくるがそのまま受ける。スクイーズとて受けっぱなしではない。少しだけ固めた程度の雪玉をぽすぽす当てていく。
遊び、ふざけながら雪原を下る。
スクイーズはこっそり視線を朝日のある後ろに向ける。
雪原の中に赤く染まっている。視認できるのは合成人間としての強化視力あってのもので、ちよがそれを能力で凝らして視ない限り気づかれることはない。
手袋を嵌めなおし、ちよの手を握る。
「迷子にならないでよ」
口調を戻し話しかけると、ちよはほっと見つめてきた。ああは言っても、彼女が長く見てきたのは蟬ヶ沢なのだ。
「セミさんの子じゃないし」
「実際それくらい離れているんだから」
「援助交際中年不審者セミ」
「援助交際はしてないし、中年だけど、不審者じゃない……かもしれないわね。いえ、そうじゃなくて、雪道は滑るんだから」
蟬ヶ沢の忠告も虚しく、ちよは足を滑らせ、手を引っ張った蟬ヶ沢も一緒に滑り転んだ。
雪道に二度目の人型をつけて、二人は大笑いした。