頂きもの

□癒しのティータイム
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「先生! 新郎新婦にお会いになりました? いかがでしたか?」
「……疲れたわ」
「あー……お疲れ様です。でもでも、本当に本当に心から先生の作品のファンなのは間違いないですから!!」
「……それは、話してみてすごく伝わって来たわ。ええ、本当に」
 引き出物について新郎新婦と打ち合わせをした時のことを思い出し、テンションの高すぎる二人に終始振り回されっぱなしでくたくたになったことを思い出した蟬ヶ沢は渋面になった。
「で、どんなものにされるんですか?」
 ドキドキワクワク、といった様子を隠すこともなくゆうきが尋ねた。
「内緒」
「ええーっ!! ヒント! ちょっとだけでも教えてくださいよ〜?」
「ダメよ。当日を楽しみにしてなさい」
「……はぁい」
 しぶしぶ、といった様子で頷く。どうしても知りたかったとは言わないものの、知れるものなら知りたいと思った彼女だった。

「ふぅ、ちょっと休憩しよ」
 ここはとあるマンションの一室。リモートワークが主流になっている現在、自宅でパソコンを開いて仕事することがすっかり河北ゆうきの日常になっていた。パソコンのウィンドウを閉じて席を立ち、キッチンへ向かう。
「何にしようかなぁ? 頂き物の大福があるし、やっぱりお茶だよね」
 食器棚からお気に入りの器を取り出す。
「♪ 蟬ヶ沢先生のデザインされた器……すごくかわいいよねぇ♪」
 ダイニングテーブルに置かれた茶筒、それに菓子器と並べた。この茶器と、茶筒、菓子器の三点は同じモチーフが使われている。なぜなら三点セットだからだ。それらを眺める自身の頬がとんでもなく緩んでいる自覚しつつ、ゆうきはそれこそ舞い上がりそうな声音でつぶやいた。だからと言って、引き締めようという気はないようだ。ここには彼女一人きり、誰も見ていないのだから。ゆうきが手に取った器は友人の結婚式の引き出物で、それをデザインしたのがほかならぬ蟬ヶ沢なのだ。そしてそれをお願いしたのは、元々新郎新婦から依頼されたゆうきだった。
「でもまさか受けてもらえるとはあの時思ってなかったから、本当に嬉しい……」
 右から左から、上から下からその白と銀の混ざり合ったそれでいて、時折虹色に輝く金属製の器を眺めつつ、感慨深げにため息を落とすのだった――。

<end>
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