スクイーズ篇 二門
□避難
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窓から伝わる冷気で目が覚める。時間はカーテンの隙間から見える朝になりかけの空で四時くらいと捉える。
窓を開けっぱなしにしていたのだろうかと起き上がろうとすると片腕をぐいと引っ張られた。腕には少女が寝ており、昨晩にはいなかったはずだ。見知った相手でもあり、驚きはしない。こうして共に寝るのは初めてではないのだ。本当に文字通り寝るだけで、布一枚脱がすこともない。
腕を掴む彼女の細腕をゆっくり剥がし、窓に近づく。窓はピッチリと閉められ、合成人間特有の驚異的な視力で見ても、開けられた形跡も見当たらない。
少なくとも彼女は窓からではなく玄関から入ってきたのだろう。合鍵は渡してあり、かついつ入ってきてもいいとは言ってある。人が寝入っている時にベッドに入ってくるとまでは予想外ではある。
「何を今さら、とは思うけどね」
静かに部屋を出て、リビングに向かう。ソファに彼女のバッグが置かれている。鞄からして、昨日も学校だったらしい。今日は土曜日。また両親に友達の家に泊まりに行くとでも言ったのだろう。
充電してある自分の携帯端末を確認すると、やはり彼女からメッセージが入っていた。予想に反して、文面には任務のことは書かれておらず、ただ泊まりに行くとだけ記されている。
なにか気がかりなことが起きたのか、両親と喧嘩してしまったのか、心配でベッドに戻る。先程と変わらず彼女は寝ており、ちょうど蟬ヶ沢が寝ていたところの布団を握っている。
起きなかったことの安堵と起きてくれなかったことへの不満と寂しさに少し自己嫌悪に陥る。
彼女の手にそっと触れて、能力越しに彼女の自身の気持ちの流れを視させて貰う。触れた瞬間は窓から伝わる冷気のような冷たさの紺色の流れがあったが、触れているところから少しずつ温かい橙色の流れが蟬ヶ沢に流れ込んできた。
「……せみさん?」
「ごめんなさい。起こしちゃったかしら」
そんなことはないと首を横に振る。寝ぼけ眼で蟬ヶ沢の手を引っ張る。
「……ん」
いなかったことが余程不満なのか、頬を膨らませながらベッドに誘導される。
何故ここに来たのか、気になることはあるが、大人しく一緒に寝た方が良さそうだ。