スクイーズ篇

□鳴かない蟬
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心底嫌と顔に書いたちよの顔に、資料として使っていた本を容赦なく置いた。“蝉”と言われ、自分のことではないが、何となくむっと来たのだ。言った本人は気が付いてないであろうが。
 ちよは隣で蝉が置いた本を乗せたままリラックスしている。足も伸ばして、完全に休憩モードに入っている。もたれたまま伸ばしたせいか、スカートがややめくれあがっている。隣に誰がいるか全く気にしていないのか、気付いていないのか、どんどんめくれていく。スカートを直接触って直してはセクハラと疑われるので、ひざ掛けを掛けた。
 ちよは特に礼を言わぬまま、無言でじっとしている。
 寝たのだろうか。疲れさせてしまったのか。顔が見えない為に判断は出来ないが、載せてしまった本はどけた方がいいだろう。手を伸ばして本をどけようとする。
「ねえ」
ぴたりと本が触れる直前で止めた。
「合成人間って、クローンみたいに同じ人間がいることってある…?」
彼女は時折困った話をしてくる。それもとびっきり困る話だ。今言ってきたこれがまさに困る話だ。合成人間に関する質問をしてくる。こういう発言する場所を多少考えてはくれているが、それでもこの職場でされて、答える前に辺りを見回してしまった。彼女の能力で既に近くに合成人間がいないのは確認済でも怖いのだ。話す中身ではなく、彼女がこの話をしてしまい、それが外部に知られてしまうのが。
「……それは私でも解らないわ…、それに、もうそういうこと考えちゃ駄目よ。下手をしたら…」
「…そうだね。でも今だけ。蝉さんが沢山いたら嫌かなってね」
「…………」
「ミンミンお説教かましてくるかと思うと、自分で鼓膜破るわ」
「今すぐ鼓膜が破けるくらいお説教してあげるわよ」
心配して損をした。
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