スクイーズ篇

□手を汚す時
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 ちよがぽかんとしている間に運転手の扉が開き、そこからスクイーズの手が伸びてちよを引き込む。強引に引かれた為、運転手の懐に収まる形になった。
 車はすぐに走りだし、ナイフを持った男はしりもちをついたまま車を見送った。
 ちよを懐に乗せたまま、車は走る。左手の肘で背中を、掌で頭をそっと押さえる。
 ちよの頭が丁度胸の辺りに当たる。そっと気づかれないように、少しだけ寄せてみる。少女漫画ならすぐに心臓の音が聞こえると言うのに、ギアの切り替えが激しすぎるせいかまともに聞こえない。
しばらく走行し、どこかのビルの駐車場に車を停めた。
 車を停めると、スクイーズは下をちらっと見る。ちよが無事であることを確認すると、深く溜め息を付く。
「怪我してないわよね?」
スクイーズの問いにちよは頷いて答える。ようやく安心したのか、スクイーズは座席からずるりと席を滑り落ちる。
「よかった……」
ちよが席から落とさないように、両手でちよを抱えた。
 スクイーズの心配性な所にちよは小さく笑った。それを聞いて、スクイーズが怒りだした。
「ちょっと!あんなのとずっと近くにいたの?あのね、あそこまで近いならとっとと近くの家でもいいから入る事!いい?」
「あー、うん、いいけど、その前に助手席に移ってもいい?」
 スクイーズは今己が何をしているのに気が付いて、ちよをひょいと抱えて、助手席へ移動させた。
 助手席へ移動させられて、ちよはスクイーズの方を向く。
 スクイーズは俯いて、手で顔を覆っている。
 ちよはスクイーズの反応に笑う。
 指の隙間から少しだけ見えた目がちよを睨んだが、耳まで真っ赤になっている様では睨みなど効かないようだ。
「あんな危ないことしちゃだめよ」
「任務に比べたら全然危なくないよ」
「どうせ生真面目に使わないで相手にしようとしたんでしょう」
(ばれていたか)
統和機構では幾人かのMPLSには能力を任務以外では能力を使わないようにと指示を出しているが、噂によるとまともに守っている者はいないらしい。

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