スクイーズ篇

□コーヒーとミルク
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ちよはスクイーズに覆い被さったまま訊ねる。
「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「……離れてからにしてくれないか。それか、遮断を……この状態は見られたらまずい」
女子が上に乗っている上に、抱きつかれている状況にスクイーズの心拍数が上がる。
 彼女は淡々とスクイーズに尋ねる。
「振る舞いを分けているのはなんで?」
スクイーズはちよの頭を撫でながら考える。
 きっかけはなんだっただろう。蝉ヶ沢としての自分を持ってきながら任務を遂行してしまうと、相手が惜しく思えてしまった時だろうか。自分たちが狩る者が実の所、普通の人間と大差ないのではないかと思ってしまったときか。
 重大任務を放棄して彼女を奴らから隠そうとしたときか。
「……なんでだろうな」
「……私も何か振り分けた方がいい?」
「どうして」
「その方が、気が楽になりそうじゃない」
「……」
「さっきは処理を任せてごめん。やろうと思えば倒せるといえば倒せるのよ」
「ああ」
「肉体の中に流れている液体、全て逆転させてしまえば、それこそスクイーズの能力みたいにばらばらになるわ」
「ちよ」
「これはただの逃げだわ。あの動物は知らないものでも」
震えた声で答えを聞くと、胸がずぎりと痛む。
「ちよ……」
「肉が細切れになるのが、気持ち悪いくらい見える」
「ちよ……」
「似たようなのが崩れるのが」
だから彼女には能力を使って欲しくない。
「ちよ……。もういい」
「“スクイーズ”、今は“ウェザー”だって」
「ちよはちよよ」
声に笑いが混じる。
「セミさん、卑怯」
「卑怯で結構よ。ちよはちよのままがいい。いて欲しいのよ」
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