スクイーズ篇

□コーヒーとミルク
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 行動を分けたのはいつからだろう。心に、言葉遣い、表情。より表の自分ではないものとして振る舞う為に、裏の自分としての行動を増やしていった。裏の自分としての振る舞いが、表の自分が増えるたびに増え、自分でもなぜわざわざ分けているのは分からなくなってきた。振り分けの意義が見いだせないならしなければいいだけのことだが、表の自分と振り分けることが出来なくなりそうで、振る舞いを分けるのを止めるは難しいだろう。やらなくてはならない。
 いつか守るものと標的が重ならないように 。
 裏と表のどちらも知る人間は多くはない。大抵は裏を知っている者が表向きの身分を知っているにすぎない。

****

 真夜中、時刻は深夜に近い時間である。
 公園で二人っきりで歩く者がいる。男女だ。デートなのかと思いきや、とくにそんな雰囲気は感じられない。
 この二人はデートとして来ているのではない。調査である。
 先に口を開いたのは男の方だった。この男は表向きの名を蝉ヶ沢卓といい、コードネームではスクイーズである。
「こんな時間に任務に連れて行かなきゃいけないとは」
と、スクイーズは女と歩いてから終始愚痴を言っている。
 女――スクイーズの監視対象であるちよは、はいはいとスクイーズを雑になだめながら愚痴を聞く。彼が普段はあまりしないむすっと不機嫌な顔を隠さずに出しているのを察して、聞き役に徹しているのだ。
 スクイーズがちよを任務に連れて行きたがらないのはいつものことなのだ。
「しょうがないじゃない。今回は連れていかないと分からない任務なんだから」
「怪我でもしたらどうする」
ちよは公園の遊具を覗き込み、なにか異変がないか探す。
「鉄壁の防御があるから安心してよ」
「大して保たないくせに」
スクイーズは周囲を警戒しつつ、ちよを見る。
「気絶した後の逃走はお願いね」 
「置いて行ってやる」
「別にいいよ。ターゲットは全部取り除いてあげるから逃げといて」
「前言撤回。何が何でも連れて帰る」
「そこまで言ったならちゃんと逃げてよ……っと」
遊具にぶつかり、転ぶ。ちよは慌てて手を付こうとする。
「あれは冗談だ」
スクイーズがちよの右手を掴んで支えた。
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