スクイーズ篇

□帰り道
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 放課後。部活も無く、行動できる時間が多く、嬉しさで早足になる。
 あの人と落ち合う場所は何ヵ所かある。
 今日は教員用の駐車場でも来賓用の駐車場でもない、学校から少し歩いた先にある公園の駐車スペースだ。
 公園は他のと同じようにブランコや滑り台があるが、一番の見どころは大きな山だ。人工の山で高さは大凡五メートルもあれば、十メートルを超すものもある。山々が連なっているので、厳密にはどこまでが一座なのかは地元の人間でも区別がつかない。
 この公園は祭りの会場にも使われることもあり、かなり広い。そのため、駐車場が複数存在する。彼が車を停めることが多い駐車場は、山々を降りて平野になった地のすぐわきにある駐車場だ。
 利用頻度の高い駐車場に来た。車はあったが、知らない車だ。私が彼と行動を共にすると職務質問をされることを考えると、ここには停めないであろう。違う駐車場で待つことにした。
 山ばかりの公園の裏、崖の下にもう一か所駐車場がある。駐車場に向かう階段を降りなければならない。困ったことにこの階段はとても急勾配で、あまり使われることが無い。最近になって手すりも付けられたが、ただポールを繋げただけのもので、これを支えにすると却って事故に遭うと思う位滑る。
 階段を降りる前に彼の車があるか確認する。
 駐車場には車が何台かある。彼の車が見えないが、もう少し遠くの駐車場に停めたのだろうか。複数台があるので彼はここに停めていないと思いたいが、どれも似た車で、近づいてみないと判別は厳しそうだ。降りて確認するしかないので、階段に足を下ろそうとする。
 突如、後ろから頭を叩かれた。驚いてびくっとなったが、すぐに気がつく。誰なのか分からないが、だからこそ誰なのか分かった。
 振り向くと、蟬ヶ沢が立っていた。彼だけは直接触れないと能力の干渉も感知も出来ないのだ。能力を使うまでもないが、反射的に見てしまう。意識も視線もしっかりこちらに向けている。ただ、彼へ何かの意識が向けられているのが見えた。
 心拍数があがる。誰かは分からないが、狙われている。初めて会った時のような命を狙うような、不穏な流れだ。
 前の様に正直に言うべきか…。
「お馬鹿。そっちに停める訳ないでしょう?」
私の緊張に彼は気付かず、彼はため息を付いて別の方向を指した。ここの公園は何ヵ所か駐車場があり、彼が車を停めていたのは私が思っていた場所とは異なる場所だったようだ。
「前はあっちだったじゃない」
 私は口を尖らせて文句を言う。今彼が停めている言った駐車場はさっき通ったが、別の車があり、そこには停めないだろうと判断したのだ。
「それは前に親子連れが駐車していたからよ」
「ついさっき、そこの駐車場に別の車が停まっていたけど。見られて大丈夫なの?」
「私が着いたときは無かったわよ」
「なかった…?」
私は首を捻る。確かに車はあったはずだ。彼と入れ違い直前に去ったのだろうか。
 蟬ヶ沢の言う通り、平野の駐車場には彼の車しかなかった。
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