スクイーズ篇
□身染めの褐葉
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0.5 頭一つ先
頭一つ分の空間の先にある手を見て、私は手を伸ばしてはひっこめている。
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貴方に触れる時、一瞬緊張してしまう。
<フェイク・シーズン>、私のこの力は私にしか視えないものを視せるらしい。
動いているものが視える。人はこの言葉を見て何を浮かべるだろうか。
恐らく他の人は物体が移動している状態を思い浮かべるだろうが、私は風や川の流れを思い浮かべる。質量を持った流れとして思い浮かべる。
私はこの力を特殊な能力だとは思っていなかった。目に見えて聞こえて、触れて、他の感覚の一つだと思っていた。それが私にしか感じ取れないものだと知ったのはとても幼い頃、何気なく言った事だ。一瞬だけのことだが、自分が他の人とは違うことに酷く寂しさを覚えた。人の心の向きが視えてしまう。見えない状態は一体どんな感覚なのだろうと、その日から考えていた。
貴方に会ったのはこの孤独感を感じてからしばらくしてのことだ。
酷く驚いた。これは幻覚なのだろうか。
直接触れないと貴方の心の向きも温かみも動かすことも出来ない。
違う。動かせても私は動かしたくはない。自分の思い通りに操り、動かして何になるというのだろうか。身勝手に変えられた心は貴方の選択した向きではなくなる。
触れても動かさずにいられるだろうか。
私が欲しいのは動かしたものではない。
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頭一つ分の空間の先にある手を見て、私は手を伸ばしてはひっこめている。
私の昔からの知り合いはとにかく心配性だ。私が特殊なの力を持つことから、ある組織――巨大すぎてシステムと言った方がいい――統和機構から匿っていたことから私に降りかかる不審な出来事には常に目を光らせている。
ちよと蟬ヶ沢卓はある山に来ている。今回は任務としてではなく、純粋に紅葉を楽しむ為に来たのだ。