スクイーズ篇

□身染めの褐葉
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02.今日の関係は?

 季節は木々が朱色、黄金色に染まる紅葉の秋。ちよと蟬ヶ沢は新幹線とバスを四時間程乗り継いで今が紅葉の見頃の温泉施設に来た。そこは夏の頃に地震が起きたが観光客は例年通りの多さで、連休の今では観光客に悩む様子はない。
 ちよと蟬ヶ沢が来た温泉施設は二つの山の麓に位置する場所で、ちよたちが普段住んでいる土地より各段に冷えていてた。
 二人はバスに下りると息を吐く。この寒さなら息も白くなるだろうと期待したが、ここは思ったほど寒くないものらしい。残念そうに口を尖らせるちよに蟬ヶ沢はくすくす笑いながらちよの両頬を包む。寒さで赤くなっていた頬がまた深みを増すが、蟬ヶ沢は気付いていない。
 周辺を散策するのもいいが、まず荷物を旅館に預けることにした。
 予約した部屋は高くも安くもない一般的な値段の部屋にした。蟬ヶ沢は防犯を考えるならば、上階の部屋がいいのではないか言ってきたが、その部屋ではちよは支払うのが厳しいのだ。蟬ヶ沢は一緒に払うと言ったが、ちよは断固拒否した。
 内装は最低限のオプションのみであったが、ここが温泉施設として栄えているからか机には温泉饅頭が置かれていた。
「おかみさんとか思ったより気にしていなかったね」
「視たの?」
「視えるの」
 ちよの能力は人の意識の向きが見える。蟬ヶ沢からすれば見られることに気疲れしてしまうのではと心配し、人気のある場所や目立つところは避ける。しかし、よほどのことがない限り、ちよは人の意識がこちらに向いても気にしない。誰だって視界に入れば一瞬くらいは視線を向けるものであり、人というのは人に反応するものなのだ。
「まあ、親子だと思うよね。こんななりじゃ」
「あら、じゃあ今日はそれで通す?」
ちよと蟬ヶ沢は二人で行動する時周囲に説明する時、便宜的に親子だったり親戚の伯父姪だったりと、関係を偽っている。正直に話したところで誰も信じはしないのだ。
「私のパパにしては洒落込みすぎていやだわ、“親戚のおじさん”」
「娘にしてはほーんと口が悪くていやだわ、“姪っ子ちゃん”」

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