スクイーズ篇 二門

□白鳥と鷺鳥
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  2.

 その合成人間は暗殺を目的として造り出された。 統和機構の合成人間には二種類に分けられる。合成人間を殺すことを目的として生み出されたか、MPLSに対抗すべく生み出されたのかだ。彼は前者だった。彼が倒してきた者は合成人間なのか人間なのか分からないことがある。任務ではある対象を発見次第攻撃せよと、軍属におけるスナイパーのような立場でまともに戦闘をしたことがない。ただ、相手の顔はわかる。数百メートル、数キロ先の目標に焦点を定め、彼の能力を放つ。当たった相手はその身に起きたことを直視できずにただただ死んでいく。
 合成人間として生きて二十年、左義長上総は疲れていた。

  ***

 スクイーズとちよは 統和機構の構成員として所属している。スクイーズに関しては管理している地域があり、この北の地は完全なる管轄外だ。二人の上司からここ二か月ほど任務を任されている。
 約二か月前の十月半ば、原因不明の通信障害が起きたのだ。ある地域から光が発射され、それは一般人、合成人間も目撃している。その日を境にある合成人間が来たのだ。
 その名はTBD。暗殺を目的とされた合成人間であり、スクイーズも”学校”で相手をしたことがある。優男な風貌は表向きの職業を知っていてもあまり結びつかない。彼の表向きの職業は自衛隊隊員だ。
 合成人間は全国、全世界に散らばって暗躍しているとされている。スクイーズも合成人間の具体的な総数を知らず、知ろうともしない。システムに関わることに関しては知ろうとしているだけでも処分対象になる。触らぬ神に祟りなしだ。 宗教でも禁忌があるように、どこにも禁忌とされているものはある。ただ、大抵の禁忌はなんの説明もなく禁止されているものだと、大本の利益が崩れる為、相手を束縛し洗脳する為とされている。
(洗脳……か)
 スクイーズは口元だけ微かに苦笑いを浮かべる。
 確かにスクイーズも 統和機構から洗脳を受けているところはあるだろう。裏切れば殺されると言われることも、全部が全部そうだとは思わないが、なくもないこと。現在、どの国も世界平和をうたっても武器を手放せないように、起こらないだろうが起きない確証もない悪魔の証明に打ち勝つことは困難だ。
 もしスクイーズが 統和機構の洗脳から打ち勝っていることがあるとすればこの手に収まる手の持ち主だろう。
「セミさん、どうしたの?」
 戦闘状態以外では任務中でも愛称で呼ぶ彼女は手を握られたことで驚いたようだが、軽く握り返してくれる。
 スクイーズの唯一の犯した禁忌はМPLSを報告しなかったことだ。
 図書館から出たスクイーズとちよは海岸へ向かった。
 時刻は頂点を超え、やや傾いただけのはずの日の空はすでに薄暗い。
 スクイーズもちよもこちら側の海を見るのは初めてだ。二人が見るのは海から上る朝日であり、あと三十分もすれば沈む夕日が見れるだろう。
「……叔父さんもあの海のどこかにいるのかな」
 ちよがぽつりと言う。
 スクイーズとちよの二人にとっては海に関して複雑な思い出がある。
「いるなら反対側かしらね」
 スクイーズからすればかつての友人との再会、ちよからすれば初めてスクイーズに会った場所が海岸だった。当時にその海で彼女の叔父はスクイーズの任務の中で亡くなったと思われている。
「……ちよ、怒っていいのよ」
 ちよは何も答えずスクイーズの手を握る。触れたことによりちよの能力で彼女の意識の向きがスクイーズも共有される。怒ってはいない。ただ酷く寂しそうで、一般人と変わりない筋肉でぎゅうぎゅうスクイーズの手を握る。
「大丈夫、どこにも行かないわ」
 握り返し、沈む夕日を背に再び山に向かう。
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