スクイーズ篇 二門
□心肺停止
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07.
スクイーズが戻ってきたときの彼女の顔は青かった。心臓が止まったのだから当たり前ではあるが心配するものだ。
気まずい中でも車に乗る行動はいつも通りにこなし、彼女もエスコートされる。
車で蟬ヶ沢の自宅に帰る途中、仕事のメールが入る。停車した際ちらっと見ようとすると手で塞がれる。
「休みでしょ」
「緊急だったらまずいでしょ。見るだけよ。………見なきゃよかったわ」
ちよから奪取した携帯端末をそっと元の鞄に入れた。
客間に敷いた布団に倒れこむ。のそりのりとお互いの布団に入る、
夜明けになりかけで今から寝れば昼に起きるだろうか。
シャワーは後でいい。
隣の布団で寝るちよの頭をわしゃわしゃする。
くすぐったそうな顔にスクイーズの頬も綻ぶ。
「あれから平気?」
「セミさんこそ大丈夫なの?」
合成人間による心肺停止は希にある。そして少し先の未来であれば、同じ砲撃型が任務対象を見て心臓を止めるだろう。
原因まではスクイーズも知らないが、心理的なものになるらしい。
「…………大丈夫じゃないわね」
が心配そうにスクイーズの顔に触れようとしたが、手を掴まれ止められた。
スクイーズの心肺停止はちよが説明をしたが、せいぜい顔面を近づけたとだけ話したと言っていた。
状況の説明は一切間違ってない。
すぐ隣で横たわるちよを手で寄せつつ自身も寄せる。
ちよは怪訝な顔を浮かべるが、特段赤らめることもなく、スクイーズも平常心のままだ。
(さっきと今ってあんまり変わらない距離なのよね)
触れている間からも彼女の能力から嫌がっている感情を視せないので、ふわふわと流れる彼女の髪をすくう。
七乃輪ほのかがプロデュースしたシャンプーを使っていると言っていた。今日もそのシャンプーなのだろう。
いつもとは違う良い香りだ。
「加齢臭臭いんだけど」
「嘘」
がばっと起き上がりすぐさま脱いで確認する。いくら嗅いだとて、自分の臭いは判別しようがない。
「嘘だって」
今シャワーを浴びたら寝れる気がしないが、嘘でも臭いが気になって仕方ない。
「それよりさ。セミさん、脱いでも平気なの」
「恥ずかしいし、平気じゃないわよ。傷跡とかは気にしてたけど、もう見られたし。未だに気にするのも、ね」
「……………」
じっと睨まれる。
「……そんなにお腹出てる?」
「……出てない」
「じゃあなんで、そんなに不服そうなの」
「……」
「……言わないと勝手に予想しちゃうけど、いいの?」
もそりとも起き上がり、てきぱきと衣類を着せて寝かせられる。
布団は寄せて、背中合わせ、訳が分からない。
更には布団の上からぽんぽんと寝かしつけられる始末。
「風邪引いても知らないからね。早く着て寝る。寒そうだって」
「むしろ熱いわ……」
背中越しに伝わる体温は子供体温か、やけに熱い。
気のせいかまた心臓が止まりそうな気がした。