スクイーズ篇 二門

□酔っ払い時限定
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 彼女は酔うとすごく甘えてくる。

 ちよを迎えに来たとき、彼女は軟骨すらなくなった烏賊よりぐにゃぐにゃしていた。
「無理に飲ませられたじゃなくてよかったけど」
 大学の同じゼミでの飲み会で羽目を外したと聞いたときは珍しいと思ったが、次を考えると灸を据える必要があると思った。飲みすぎたんじゃないだろうか。
 会計は既に済ませたと言う。女子会プランのみの予算でされていたらしい。料金も事前に幹事に渡していたらしい。
 ちよをお姫様抱っこしながら、ゼミ生にお礼をいい去る。他の女子ゼミ生も親や彼氏か兄弟姉妹か、迎えが来ている。幼い子が何も知らずについてきたらしく車の中で待機しているのが見えた。
「ごめんなさいね。酒癖は悪くないと思うけど、はしゃいでたでしょ」
「いえいえ、おとなしかったですよ。彼氏さんが来るまで、しゃきっとしてましたし。来たのが分かったとたんにこの通りになりましたし」
「……………そう」

***

 蟬ヶ沢の家に連れて行くか、ちよの家に帰すか迷ったが、そのまま自分の家に連れて行くことにした。ちよのご両親にも連絡をし、断りを入れる。母君は相変わらず面白がっているが、電話の向こう側から聞こえた「あいつのところか」と呟く彼の声も聞こえた。
 帰路に着き、ちよを寝室に運ぶ。
 酔いも少しだけ覚めて赤らんだ顔もほんのり程度の赤みになっている。
 唇を重ね、舌も入れて体調も調べる。合成人間で良かったと思えるようなそうでないような。今やキスをするのも抵抗のない身分となれども、この調べる方法を彼女にするのはやや気が引ける。
 合成人間基準からすればさほど酔う量ではないが、ちよからすれば充分な量なのだろう。危険な状態ではないのは分かり胸をなでおろす。
「お酒臭いわね……」
「ぐるぐるする」
「水と薬を持ってくるわ」
 立ち上がろうとする蟬ヶ沢の服の裾をちよが掴む。
「……ちょっと待って」
 ちよは蟬ヶ沢に腕を回す。彼は何も言わず顔を近づけ、キスをされる。ちよも舌を入れるが、蟬ヶ沢のように調べる目的ではない。
「今日飲んだの当ててみて」
 いたずらっぽく囁く。彼女の赤らんだ顔は本当に狡い。
 ファジーネーブルなのか、甘い柑橘類の味がする。
 赤らんだ顔は酔っていると分かってても、これ以上の甘えは危険だと自身を抑える。
 絡まった腕は離してくれない。甘え足りないと彼女を通して視せられる感情も主張する。蒸発した甘いカクテルの跡のべったりした感触の意識だ。
 彼女が酔うといつもこれだ。素直さが出て、こちらの止める理性が効かない。
「そうね、もうちょっと調べさせて?」
 答える気も当てる気もさらさらなかった。
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