短編そのに

□蒼の姫君
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あるところに一つの塔があった
それは棘のついた碧い蔦でおおわれていた

いつからあったのか、
誰が作ったのか
何のためのものなのか
誰も何も知らなかった

ただ、当然とそこにあって
その場所から周りを見ていた

小さな入口は、蔦に覆われてまるで見えないが、
そこを潜り抜けると上に向かう螺旋状の階段がある

古びて朽ちてしまっているがなんとか登れそうなそれは
ゆっくり登らないと危険だろう
降りていくことは、とてもできそうにないくらい、腐敗していた

登りきった先にあるのは大きなベットのある小さな部屋
小窓には柵があり
飛び降り防止となっていた


何もかもが古い場所
そこに置かれた大きなベットだけが
異質を放っていた

白いシーツ、白い毛布



すべてが純白だった



薄汚れた塔の中
真っ白というものはとても浮いていた

そしてそこに咲くのは



一色の、青い薔薇のみ





「いつになったら、ここに迎えがくるのかしら」




眠る少女がそれを口にする




「さぁ?」





白い少年が窓際で座りながら少女の言葉にこたえる






このなかにいるものは、この二人



今まで彼女はこの少年以外のヒトガタを見たことはない。
理由は、ずっと、ここに閉ざされているから





「もうすぐ、ここから出られるよ」









「どうやって?」






「ここに、人が来るんだ」







「貴方は、どうなるの?」







静かに眠る少女が言うと少年は朝の光をあびて綺麗に笑った




「役目を、終える、それだけだよ」






少年は、少女に近づく


笑い顔で泣きながら


少女の眠るベットの端に座り、蔦が身体に巻きついていく。





それはまるで



























「あのばあさんの言うことが本当ならきみは、ここから出て新しい世界に行くんだ」






「貴方は一緒じゃないのね?」











少女の言葉に少年は、ただ笑う












「喜ぶべきなんだよ」










「100の朝と1000の夜を一緒に過ごしたのに、














別れなくちゃならないのに、


















どうしたら喜べるの?」















少女は気づいていた








少年が、ヒトではないことを



















蔦は、少年の身体に巻きついていく



少年の身体に、巻き戻るように絡まる











「もう、終わりなんだ」















少年の胸に咲く、青い薔薇












それは、塔に咲くものと同じで
















「さぁ、麗しの姫、お目覚めの時間だよ」





















紅い唇に、少年だった彼の、青い薔薇が触れた



































「姫!迎えに参りました!!」
















金髪の青年が、入って来た













少女だった彼女は



美しい女性に変わっていた























どれほどの時が流れたのか、













彼女には知らないが、






塔の青い薔薇は














少女だった彼女の枕もとの一輪を除き、






すべてが枯れてしまっていたという










彼女は静かに起き上がると、




少年の笑みを思い出しながら



涙を浮かべて





























貴方には、100の朝と1000の夜を孤独に過ごせる勇気があるか






















来た者にそう問うたという



















蒼の姫君

20110502

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