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□王道賛美
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 ああ素晴らしきかな、わが平和よ。
そう思えていた在りし日の生活に想いを馳せる。懐かしい平和な日常。友と一緒に帰った放課後の道。
 すべては過ぎ去りし過去だ。
俺はそろそろ現実に戻り、この悲惨な今を生きていかねばならない。
安らかな思い出をよりどころにいやいやながら現実世界へと戻っていくのだった。

「−−−って何その話し方。キモッてか独り言長すぎない?大丈夫??頭悪いの」
「うるせー!俺の感傷に浸った思いをキモイってなんだよ。この情緒的かつ詩的な語りをだなー」
「あーはいはいはい。うんうんすごいー」
「遮るなよ・・・・悲しいじゃんか・・・」

隣に座っている親友の声で俺は脳内の幸せな記憶から現実へと戻ってきた。
授業も終わり、放課後の教室には俺と親友の2人だけがいる。
運動場の方から部活にいそしむ学生の声が遠く聞こえる。

「で、課題は終わったの?」
「うむ、見ての通りだ。全く終わらない・・・」
「現実逃避ばっかりしてるからじゃない」

はあとため息をつく親友。俺だって好きで課題をためているわけではないのだ。これには海より深く山より高い理由がある。

「これは、俺が転入してきた時期が悪かったせいだ、わが親友。だからそんな目で見ないで」
「・・・・」

夕日に照らされた親友の美しい顔は呆れたように俺をあざけった。

「本当にお前はタイミング悪かったよな」

そうなのだ。俺は恐ろしいほどタイミングに恵まれなかった男なのだ。
親友の憐れむ顔を見ながらこんなことになってしまった経緯を思い出す。




4月は中旬、もうすぐ連休に差し掛かろうとしている日に俺は高校を転校することとなった。

「お、お母さま・・・なぜ俺は転校せねばなら
ないのですか!?つい最近、高校入学をはたしたピカピカの1年生ですぞ!?我、1年生ですぞ!?これから友達100人作るのに!」

 そうなのだ、俺は必至こいて受験戦争に勝ち志望校に入学を果たしたピカピカの1年生だった。
ようやくクラスのメンバーの顔と名前が一致し始めた4月中旬、俺は母親に突如、転校しろとの名を受けた。

「あんまりだ!なぜ今!?せめて受験の時に言ってくれればよかったのに!なぜ今!?」
「仕方ないでしょう。おじい様が突然あんたを『薔薇学園』に転入させるように言ってきたんだから」
「でも、でも!」
「決まったことなの。ほら、荷物準備して」
「てか、薔薇学園て何!?名前だっさ!ヤダ俺そんなとこ行きたくない〜!!」
「うちはおじい様に逆らえないことは昔からわかってるでしょう。・・・本当に申し訳ないと
は思うけれどもあきらめて頂戴」

ピーピー母の足に縋り付いてみたもののあっさりと躱されてしまった。なんと冷たい母なのだ・・

まあ母が、こういうのにも理由がある。
 我が家の祖父は某企業の偉大なる創設者である。日本の大手企業トップ30には入る。・・・トップ30て何か中途半端に中途半端に思ってしまうが、抱える社員は10000人以上、年商もウン億万円という恐ろしいものなのだ。その創設者で会社で一番偉いのが俺のじいちゃんなのだ。
 まぁ、だからと言ってうちには特に七光り的なものはないのだが。なんか納得いかない。
実力主義の祖父は自分の息子の中で、特に平凡に暮らしている3男である父に特には口出ししてきたことはなかった。
その代わり、バリバリに働き、将来会社を継ぐであろう長男、2男にはかなりの干渉があった。
 それと比べ末っ子3男の父を持つ我が家ではある程度の本家への呼び出しなどはあったが、一般家庭としてつつましく暮らしてきた。
 しかし、七光りはないが祖父の発言は一族の中では絶対となされている。もれなく我が家も祖父の言うことには従わざる負えないのだ。全く持って理不尽極まりない。
このことは父曰く

「まぁ、僕らはまだいいほうだよ。兄さんたちに比べたらさ・・・・だから、たまに父さんの言うことには絶対従っておいたほうがいいんだよ」

そのほうが後々面倒じゃないからね、と笑う父の背中はすすけて見えた。

そして今回
「でも今ぁ!?このくっっっっそ中途半端なこの時期にィ!?」

 祖父からの転入命令が出たのである。
俺は散々子どものように駄々をこねてみたが結果は無駄であった。
ポイポイと勝手に転入届がなされ、ついでに全寮制の男子校だからと家を追い出された俺は季節外れの転入生として薔薇学園へとやってきたのだった。
 だが、季節外れの転入生は俺以外にももう一人いたのだった。
 
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