1.夢小説

□ね
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ね(入れ替え)

杉原の馬鹿娘を殺せば私は武家の娘になれるだろう…。
寧々はもうすぐ養子に行く。私と寧々が入れ替わった所で誰も気付かないはずだ。

「姫様、今日も替わりを務めあげましたよ…」

裸で横になっている寧々の肩を揺すり起きるよう促す。雄臭い肢体を持ってきていた手拭いで綺麗にしておいてやると、寧々は薄く目を開けた時、「ご苦労」と偉そうに呟いた。

(私が影武者で無ければお前は既に死んでいる…)

人に毒母の相手を押し付けておいて男と昼間から情交に及んでいた吉子はそのまま礼も言わずに私を脱がして姫の格好に戻った。裸になった私は草むらで泥だらけになっていた自分の普段着を見つけてため息を付きながらそれを着た。

「たまには自分で手習いに出ないとうつけになりますよ」
「もううつけじゃからいいもん」
「その考えがもう…」
「ええいうるさいうるさい下働きのくせにわしに説教か!お主は黙ってわしの影武者を務めておればよいのじゃ!」
「はいはい…」

自由な寧々が羨ましかった。現代から何故か戦国時代にタイムスリップしてしまった私にとって毒母といえど手習いは有り難く、村での生活も寧々が奔放に振る舞うおかげで男に尻を触られるものの楽に生活出来ている。無愛想な私には出来ない芸当が出来る吉子が羨ましい。だから殺そうとは思うものの、なんだか憎めなくて寝首は掻けないのだ。けどそろそろ寧々に頼っている訳にもいかなくなる。冒頭で語った通り、寧々はそろそろ養子に行くからだ。

「浅野の家に行く準備をしておけとお母様がおっしゃっていましたから必要なものを下女に頼んでおいて下さいね」
「そんなものはお主がしておればいい」
「私は浅野に行かないですし…」
「何を言う。お主も行くのじゃ。明晩こっそりわしの荷物の中に潜り込め」
「…分かりましたよ」

私はどうやらこの我が儘姫に頼りにされるのが好きらしい。

そう思っていたのに。

「寧々…?」

土砂降りの雨の日、道で寧々を見つけた。吉子は私の服を着て倒れていた。

「姫様!濡れてしまいますぞ!ささっ中にお入りなさいませ!」
「ばあや、しかし、子供が倒れて…」
「下々の者など放っておきなされ。貴方には関係なきことです」
「っ、お婆さま!あちらが寧々様です!お助けを…っ」
「……」
「お婆さま…?」
「明朝浅野に立つ。大人しくしとれよ、吉子」
「!?」

祖母は凄まじい力で私を箱の中に押し込んでしまった。
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